高校の卒業式まで十日。担任教師がクラスの生徒二十九人全員を人質にして教室に立てこもった。
私立・魁皇(かいおう)高校。偏差値レベルは判らないが、タチの悪い不良も何人かいる。そんな連中を教室に集めた担任の柊(ひいらぎ)一颯(いぶき)(菅田将暉)が「きょうは大切なお知らせがあります」と軽やかに告げる。「皆さんには人質になってもらいます」
テメエふざけんなと襲いかかる悪ガキを、一瞬で殴り蹴り圧倒する柊。物静かで授業熱心な美術教師はブッキーと侮られていたが、格闘能力は抜群だ。
まだ状況が掴めない反抗的な生徒に、ブッキーが腕時計のスイッチを押すと廊下と階段が爆破。外界からの通路は絶たれて3年A組は密室となった。このオープニングからラストまで、画面に集中させられた。
3年A組には公然の秘密があった。水泳の全国大会で優勝した五輪候補の景山澪奈(上白石萌歌)が半年前に自殺した。ドーピング疑惑がネットで炎上した末のイジメによる自殺だ。
なぜ彼女が自殺したか。夜の八時までに正解を出せたら解放する。不正解なら一人死んでもらう。
サスペンスが一気に加速していく。柊が校舎に仕掛けた爆弾が次つぎ炸裂するからじゃないよ。自殺した生徒のことなんか忘れている、頭カラッポの生徒たちと、静かな情熱で彼らを諭す教師との対決に、私の心がザワザワ騒ぐからだ。
菅田将暉が文句なしの好演。クールな表情を浮かべながら、ときに生徒の心の荒廃に「オマエら、そろいも揃ってクズだよなあ」と呟いてから「変わるんだ。悪意にまみれたナイフで弱者を傷つけないよう変わるんだ!」と吠える。
クソ生徒の中に一人だけ澪奈を忘れない少女がいた。澪奈の容姿とアスリートの肢体に憧れていた茅野さくら(永野芽郁)だ。地味で小心な性格ゆえに、学級委員長を押しつけられ、アダ名は「奴隷」だ。
さくらが純情なんだ。アタシのどこがいいの。澪奈に訊かれて「澪奈様はエモい。WWEのリングで闘う中邑真輔くらいエモい」と答える彼女が愛らしい。
脚本の武藤将吾は『若者たち2014』を手がけている。貧困の描き方が古臭いとか、兄弟喧嘩っていうとすぐプロレスかよとディスる連中がいた。私はそんな奴ら相手に、この国の深刻な貧しさとプロレスの深さをこの欄で書いた。
菅田将暉も凄いが武藤の脚本も負けない。いま、この国がどれだけ想像力を欠いているかが裏テーマだから、菅田のクールな怒りも、永野の純情も生きる。
そして朝の教室ダンス。深刻な状況で朝ダンって、最近のとりあえずダンス踊らせるドラマへの痛烈な皮肉で笑える。荒廃した学園での、孤独な教師の叛乱は何を暴き、救うのか。
▼『3年A組 今から皆さんは、人質です』
日本テレビ系
https://www.ntv.co.jp/3A10/