最年少タイトル獲得のチャンスは残り10回
獲得までの白星がもっとも少なくて済むのは、王座戦(9~10月に決着)だ。前期はベスト4まで進んだので、挑戦者決定トーナメントのシード権がある。こちらも4連勝すれば、斎藤慎太郎王座との五番勝負となる。
藤井が屋敷の年少記録を破るためには、2020年の12月末までにタイトルを獲得する必要がある。その可能性があるのは2019年の棋聖戦、王座戦、竜王戦。2020年の王将戦、棋王戦、叡王戦、棋聖戦、王位戦、王座戦、竜王戦の合計10棋戦だ。これを多いとみるか、少ないとみるか――。
王座戦のベスト4進出だけでなく、トーナメント棋戦優勝経験も考えると、挑戦者になることは夢物語とは言えない。だが、その先にあるタイトルホルダーとの番勝負は藤井にとって未知の領域だ。一発勝負ではない長期戦、全国各地を転戦する環境の差、経験がないであろう和服姿と、これまでになかったことばかりだ。また二日制では封じ手を巡る駆け引きも生じる。それを跳ね返して偉業を達成できるかどうか。
年度最高勝率の更新には全勝が必要
これまでの年度最高勝率は中原誠十六世名人が1967年度に達成した0.855(47勝8敗)。藤井は前年度にも更新の期待がかかったが、惜しくも届かなかった。
だが、今年度もチャンスが来ている。朝日杯を優勝した2月16日時点での勝率は0.851(40勝7敗)。この数字を生かすにはどうあるべきか。
藤井が年度末の3月31日までに組まれる対局数は、おそらく10局を超えないだろう。そうなると1敗した時点で、更新には8勝を積み重ねる必要があるが、これはかなり厳しい。事実上、残る対局を全勝する必要がある。
もちろん次年度以降にも更新のチャンスはあるが、上位クラスとの対戦が多くなると高勝率の維持は難しい。そういう意味でも今年度の機会は大きいのだ。事実、歴代の高勝率達成者をみると、いずれも将棋史に名を遺す棋士ばかりだが、そのほとんどが低段時代に記録されたものだ。
唯一の例外が1995年度の羽生。46勝9敗の0.836と、中原の記録にあと1勝及ばなかったが、特筆すべきはこの年度に羽生は同時七冠を達成しているということ。タイトル戦番勝負でも25勝5敗(0.833)と圧巻の成績を残している。
もし藤井が羽生以来となる全冠制覇を成し遂げたらどうか。こちらはさすがにまだ夢物語の段階と言わざるを得ないが、それを実現したら同時に最高勝率達成もありうるかもしれない。