渡貫淳子さん 撮影:対馬綾乃

「新聞で見た一枚の南極の写真がすべてのきっかけでした。そのとき、心にしずくが一滴落ちたような気がしたんです」

 一児の母として家事・育児に奮闘していた主婦が一念発起、3度のチャレンジの末、調理隊員として南極観測隊に参加。その一部始終が『南極ではたらく』(平凡社)として刊行された。

 著者の渡貫淳子さんによれば、南極に食糧を運ぶチャンスは年に一回だけ。30人分合計30トン2000品目の食材を、飽きさせず、美味しく提供するのが渡貫さんの仕事だ。

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「生ゴミも焼却して日本に持ち帰りますが、南極の海を汚さないために排水も制限されるんです。そこで無駄を極力なくそうと考えたのが“南極リメイク”料理術です。カレーライスをつくったら、そのまま鍋を洗うのではなく、カレードリアやカレースープにアレンジして使い切ります」

 冷凍すると野菜の食感が失われてしまうが、「意外といけた」のがキュウリだった。

「食事に歯ごたえや食感がないとメンタルに影響してくるんです。噛むって大事なんだなと思いました」

 SNSで話題になった「悪魔のおにぎり」が生まれたのは隊員に夜食を作っていたとき。これも昼の天ぷらうどんの天かすをリメイクしたもの(著書では各種レシピも公開)。持ち前の明るさでときに隊員とケンカしながらも渡貫さんは任務を遂行。帰国したときは“南極ロス”に陥った。

「スーパーに、時間がたてば廃棄される運命にある食品が並んでいるのを見るだけで涙が溢れて困りました」