有利な豊島だが、最後に難関が控えている
今期の挑戦争いは7勝1敗の豊島将之二冠、6勝2敗の広瀬章人竜王、羽生善治九段の3人に絞られた。豊島と広瀬は初の名人挑戦を目指す。羽生が挑戦すれば2期連続通算9回目で、名人挑戦の歴代1位の記録となる。また、40代に入ってからは5回目の挑戦となり、これも歴代1位だ。
豊島の対戦相手は久保利明九段。豊島は2018年度の先手番は21勝4敗と非常に高い勝率を挙げている。ただし、久保との対戦成績は14勝15敗。特に先手番は4勝9敗と苦戦している。昨年の第67期王将戦七番勝負では2勝4敗で敗れた。豊島は有利な立場だが、最後に難関が控えている。豊島が挑戦者になれば、平成生まれで初の名人戦登場となる。
久保は2月25日に第68期王将戦七番勝負で渡辺明棋王に4連敗して、王将を失冠した直後だ。新しいスタートを切るための戦いになる。
豊島が敗れた場合、2敗同士の広瀬と羽生による直接対決の勝者とプレーオフとなる。広瀬-羽生戦といえば、昨秋の第31期竜王戦七番勝負の記憶が新しい。過去の対戦成績は羽生18勝、広瀬12勝だが、2018年度は広瀬が竜王戦をはじめ6勝3敗と追い上げている。
残留は三浦と深浦の争い
残留争いは、降級1枠が0勝8敗の阿久津主税八段に決定。もう1枠は2勝6敗の深浦康市九段と3勝5敗の三浦弘行九段に絞られた。
三浦は対戦相手の稲葉陽八段にはA級順位戦で2連敗。ただ、A級最終戦に強く、これまで10勝5敗。トップで活躍するには、将棋が強いだけでなく、勝負に強いことも大事な要素になる。その勝負強さで三浦は数々の危機を乗り越えてきた。最終戦に負けていたら結果的に降級だったケースは多い。昨年も渡辺明棋王との直接対決を制して残留を決めた。
深浦は自身が相手の糸谷哲郎八段に勝っても、三浦が負けないと残留できない厳しい立場にある。それでも、残留の可能性があるのは順位が有利だから。同じ成績の者が多数いた場合、前期順位の上位者が有利になる。プレーオフについても、パラマス方式のトーナメントで行われるため、3者以上の場合は順位の上位が有利だ。それゆえ「順位一つが1勝分の価値」といわれる。稲葉も三浦と同じ3勝5敗だが、三浦や深浦よりも順位が上なので、8位を確保して残留を決めている。順位の優位が生きた例だ。
深浦と三浦は順位戦で因縁が多い。深浦は三浦と同星でも、昇級を逃したり、A級から陥落したりと順位差に泣かされることが多かった。4勝5敗とほぼ五分の成績でも、残留できなかったことが2回もある。それらは昇級に関係のなかった1994年3月のC級2組順位戦の対局に端を発する。そこで勝った三浦が上位に立ち、結果的に深浦は何回も苦汁を飲まされることとなった。現在は深浦が順位一つ上位だ。それを生かして残留できるかもしれない。
残る佐藤-阿久津戦は、唯一挑戦と残留にかかわりはない対局。佐藤にとってはまさに「順位」戦だ。勝てば最高4位、敗れると最低7位になる可能性がある。「順位一つが1勝分の価値」であることを考えれば負けられない。
阿久津は残念ながら、すでに降級が決まっている。A級2期目だが、これまで勝ち星を挙げていないのがつらい。今期は王位戦で挑戦者決定リーグに勝ち進んでいるし、イップスかと思われるが、最後に勝って悪いイメージを払拭したい。
トップ棋士10人が一堂に会して一斉に戦い、それを観戦できる機会はそう多くない。「将棋界で一番長い日」にご注目いただきたい。