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特集観る将棋、読む将棋

2019/04/05

流行の戦術とマッチしているかどうか

 不調の原因は、棋力の衰えだけではない。棋士のタイプや好みが流行の戦術とマッチしているかどうかもある。若い世代の棋士なら、後者のほうが大きな要因だろう。

 渡辺は盤の隅に玉を囲う「穴熊」を得意にしてきた。戦場になりそうなところから離れることで有利に戦いやすいという判断だ。好機と見るや、すかさず穴熊を目指す指し方は「隙あらば穴熊」といわれ、一時期よく聞かれた。

朝日杯オープンでは、決勝戦で藤井聡太七段に敗れて惜しくも準優勝に終わった ©文藝春秋

 ところが、コンピュータ将棋の影響もあり、ここ数年で戦い方が変わった。玉に金銀をくっつけてガチガチに固めるのではなく、バランスよく配置して指す戦法が主流にのし上がってきたのだ。5年前の流行が懐かしく思えるほど様変わりした。ここ10年くらいはがっちり玉を固める戦術を渡辺が牽引してきたが、現在はそうとはいえなくなってきた。

 将棋のルール自体は変わらなくても、そのときどきで中心になるテーマが変わり、戦い方もがらりと変化してしまう。渡辺は「2017年度は戸惑っていた部分があった。特に後手番での戦い方が固まらず、勝率も悪かった」という。

 渡辺の2017年度の成績は21勝27敗。年度単位で初めての負け越しで大きく崩れた。先手番はまずまずだったが、後手番では7勝18敗。これだけ負けてしまっては、タイトルの防衛やA級順位戦の残留は難しい。それでも、棋王を薄氷の防衛。踏みとどまってトップ棋士の地位を保ち、逆襲の足掛かりにした。

穴熊を指さない渡辺

 前述した超一流棋士たちは壁を越えて実績を重ねたケースが多いが、渡辺もその例に漏れない。ここ数年、序盤戦術の移り変わりが激しかったが、2018年度は新しい戦術よりも、細かいところで工夫することが多くなった。そうした状況で、渡辺は流行の戦術の理解が追いついて、白星を積み重ねるようになっていく。

 2018年度の渡辺の将棋を見ると、穴熊を用いた将棋が1局もない。これまでになかった傾向で、進化の一端が表れている。

 王将戦では、振り飛車党のトップの久保利明王将を相手に渡辺が4連勝で一気に決めた。後手番の第2局では最近注目されている囲いを用いると、巧みな指し回しで制勝。筆者は第3局をネット中継のため取材した。棋王戦とダブルタイトル戦の最中だったが、渡辺に疲れの色は見えなかった。対局は渡辺が前例ある展開から工夫してペースをつかみ、ただで銀を捨てる派手な攻めを繰り出す。久保の方に受けの好手があって対抗できることに渡辺は気づいたが、久保は逃してしまう。差が広がり渡辺快勝。続く第4局も快勝で王将復位を成し遂げた。

4連勝で渡辺が王将を奪取した。対局は沖縄県で行われた(主催社・毎日新聞社のツイートより)