渡辺明棋王(34)に広瀬章人竜王が挑戦した第44期棋王戦五番勝負。昨年末に竜王を獲得、勢いに乗って二冠目を目指す広瀬だったが、渡辺が3勝1敗で退けて、棋王7連覇を果たした。並行して行われていた第68期王将戦七番勝負では、渡辺が久保利明王将を4連勝で破って王将に復位。ともに「八大タイトル」である棋王戦と王将戦の番勝負で、7勝1敗と圧倒的な成績を挙げた。

広瀬章人竜王とは、ともに「二冠」をかけて戦った ©君島俊介

 棋王と王将の二冠、将棋日本シリーズ優勝、21年ぶり史上2例目のB級1組順位戦12戦全勝でA級復帰、公式戦15連勝、年度勝率8割――。これらは渡辺が2018年度に挙げた主な実績だ。第46回将棋大賞では優秀棋士賞を受賞した。前年度は勝率5割を切り、無冠の危機もあったが、それを乗り越えて充実の時期にある。

タイトルの15年連続保持

 渡辺は2004年末に初タイトルの竜王を獲得してから無冠になったことがない。現在保持している王将や棋王の来期の番勝負は、どちらも2020年に入ってから行われる。そのため、渡辺がタイトルを一つ以上連続で保持している期間は、今年の年末に15年を超えることになる。大山康晴十五世名人は最長が14年10ヵ月なので、渡辺はその記録を抜く。なお、一つ以上のタイトル連続保持記録の歴代1位は羽生善治九段の27年9ヵ月。

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 渡辺のタイトル戦を見ると、防衛戦は先日の棋王戦五番勝負が20回目になる。そのうち16回防衛した。タイトル獲得数歴代4位の谷川浩司九段は、防衛成功は12回、失敗は15回なので、渡辺のタイトルの防衛率が非常に高いことがわかる。なお、挑戦は10回でタイトル奪取は6回。防衛率が高いので物足りなく見えるが、奪取率も高い。

 タイトルの防衛、挑戦、どちらが有利かは一概にいえない。ただ、防衛側はそのときどきで充実し、勢いをつけて挑んでくる挑戦者を退けなければならない難しさがある。渡辺は作戦家で、タイトル戦で定跡になる将棋を多く指している。そうして、挑戦者の勢いを跳ねのけて竜王9連覇、棋王7連覇といった実績を挙げたのだ。

棋士が迎える33歳からの「壁」

 渡辺よりもタイトル獲得数の多い棋士の33歳から34歳ごろの出来事を見てみよう。1970年生まれの羽生善治九段は、2003年から翌2004年にかけて持っていた4つのタイトルのうち3つを森内俊之九段に取られて一冠に後退。1923年生まれの大山康晴十五世名人は1957年に無冠になり、升田幸三実力制第四代名人に当時の三大タイトルの独占を許した。1947年9月生まれの中原誠十六世名人は、1982年7月に9連覇中の名人戦で加藤一二三九段に敗れ、その後無冠に陥落。1962年生まれの谷川浩司九段は1996年に羽生に第45期王将戦で敗れて、史上初の七冠独占を許した。

2004年、名人戦で森内俊之に敗れて一冠(王座のみ)に後退した羽生善治 ©共同通信社

 挙げた4人は意外にも33歳から34歳のころは不振の時期にあった。もちろん、偶然一致したに過ぎないが、一つの壁を迎える時期といえるだろう。これらの不振は、ライバルの躍進が主要因にあることが多い。ただ、渡辺の場合はライバルというよりも、新しい戦術の登場による変化で苦しんだことが不振の原因といえる。