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歌舞伎町のサパークラブで覚えた「里言葉」

おぐら でもいまの問題意識だらけの世の中では、定住しない越境者のほうが生きやすいかもしれません。変化に対応できない人たちが、いつまでも「俺の若い頃はそんなことなかった」とか言いながら、アップデートされていく時代を恨んだりしてますから。

マキタ そもそもの越境でいうと、山梨から上京してきたのもそうなんだよね。東京に来て初めて「言葉が通じない」と思った。歌舞伎町のサパークラブでバイトをはじめたときに、業界用語というか、とにかく里言葉みたいなやつがあるわけよ。それはどの分野でも、どの時代にも必ずあって、同じ日本語だから意識が薄いだけで、確実にある。そこで俺は、外国に留学した生徒のように、その国の言葉を覚え、その国の飯を食べ、現地の人と酒を酌み交わしたりしながらコミュニケーションを深めていった。

 

おぐら そういった経験が越境芸人となったいまに活きていますか?

マキタ かなり活きてるね。俳優業をするときには、同業者の役者たちと一緒に飯を食べ、役者言葉をしゃべる。あとは外からやって来た人間だからこその素朴な疑問をぶつけてみる。

おぐら それは有効ですね。「これ何ですか?」って聞くだけで、そのジャンルの先輩たちはうれしくなっちゃう。

マキタ 「いいか、これはなぁ」とか言って、喜んで教えてくれるよ。

 

おぐら 留学の例えで考えると、海外で自分の言葉や常識が通じない、なんでこんなことが当たり前に行われているのかわからないっていう状況を、ストレスだと感じるか、あるいは楽しいと思えるか、向き合い方ひとつで変わってきます。

マキタ もちろん相手に合わせることは疲れるんだけど、それを新しい価値観との出会い的な快楽にまで持っていけたら最高。でもたいていの人は「疲れるから遠慮します」で終わりなんだよね。

おぐら この話は、いわゆる共感ビジネスの話にも通じますね。

マキタ まさにそう。いまこそ共感は最強だよ。

おぐら 共感が最高のコンテンツになる時代。多様性の容認が進み、自分とは異なる価値観が次から次に押し寄せる時代背景の中でストレスを感じているからこそ、説明不要の一発で相互理解を獲得できる共感に飛びついちゃう。

マキタ あとは景気とも関係があって、景気の良かった時代には無意味なものや、無駄に長大なものにお金や人材を投入できた。

おぐら 意味のないもの、ナンセンスがかっこよかった時代ですね。

マキタ 今はみんなナンセンスに時間とお金を使う余裕なんてないよ。

「わかるわかる」が一番売れる

おぐら フィクションよりも、実用書や自己啓発本が売れますし。

マキタ 「わかるわかる」が一番売れる。そういう時代にお笑いとして最強なのは、ものまねでしょ。

おぐら 「わかる~」で笑えるって、最強の芸ですね。

マキタ ものまねのベースにあるのは共感だから。顔が知られている人に人気が集中するのも理屈としては同じ。意味のないものや知らない人の芸を見せられると不安になっちゃうから、ストレスなく理解できるほうに人は流れていくんだよ。