芸人・マキタスポーツさんと、「テレビブロス」でおよそ8年にわたって連載しているコラム(『越境芸人』で書籍化)の担当編集者・おぐらりゅうじさんの対談 第4回。芸人、俳優、ミュージシャン、文筆業……“越境”を続けるマキタさんの生き方と「共感ビジネス」の共通点とは。(全5回の4回目/#1、#2、#3、#5が公開中)
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自分のいる業界に染まりきって生きるのは楽
おぐら 『越境芸人』の帯には「『ありのままの君』でいいわけないだろ」、「『多様化』はストレス」と書いてありますが、芸能界に限らず、別の世界を知らないまま、自分のいる業界なり世界に染まりきって生きていくのって、一番楽ですよね。
マキタ 身も蓋もないことを言うと、人間にとって最も楽で幸福なのは、問題意識を持たないことだと思う。
おぐら ハラスメントの問題とかは、まさに問題意識のズレが最大の要因です。
マキタ 何か新しい問題が起きたときに、これまでの経験値や慣習や常識を疑って、頭を使って思考せざるを得ないような状況になると、人はものすごいストレスを感じる。毎日いい加減に飯を食って、スマホ見ながら電車に揺られて、会社では決められたことを淡々とこなすって、この上なく幸せでしょう。かけがえのない時間だよ。
おぐら 幸福度が高いゆえに、崩れたときに感じるストレスも大きい。
マキタ ルーティーンにどっぷり浸かっている人ほど、変化を嫌がる。
おぐら 電車が遅延とか。
マキタ 許せないね。
おぐら 別の業界から転職して来た上司とか。
マキタ あ~許せない。
おぐら 何年も買っている商品の仕様が変わった。
マキタ 即クレーム。
おぐら 新入社員からの「それLINEじゃダメなんですか?」。
マキタ 無理。団塊の世代は卒倒しちゃうよ。
どこに行っても、馴染むのに時間がかかる「転校生」
おぐら そういう意味では、マキタさんは芸人の世界における常識も知りながら、ミュージシャンとしては音楽業界の、俳優としては映画界やドラマ界の常識も身につけないといけませんよね。
マキタ だからもう、問題意識が発生しまくりなの。芸人の世界では当たり前のことが、映画の現場で「あり得ない」と言われたり、逆になんでこんなことしなくちゃいけないんだっていう疑問も「この業界ではみんなやってますよ」で片付けられたり。
おぐら そのたびに「なぜなんだ」と思考するのは素晴らしいことじゃないですか。
マキタ どこに行っても転校生みたいな気分だし、いちいち馴染むのに時間がかかる。