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 日本では、路上におけるトランス女性への暴力はほとんどありません。日本はトランスジェンダーにとって世界で最も安全な国です。これは誇っていいことです。そうした事態は外国の話だと思っていました。しかし、今後、トランス女性排除が強まっていくならば、「他人事ではなくなるな」と思いました。

 私のような「この道30年」の擦れっからしでさえ、大量の差別的なツイートに接すると、心が削られる思いがします。まして若いナイーブなトランス女性の心理的ダメージはいかばかりでしょう。差別は人を殺します。私はもう自分より若い仲間が死を選ぶのを見たくありません。

©getty 4月初めにフランス・パリの街角で暴力をふるわれたトランス女性がデモに参加する様子

性別越境の芸能が愛される、日本社会の伝統が守ってきたもの

『旧約聖書』で異性装(女装・男装)を厳しく禁じている欧米のキリスト教社会と違って、日本には女装・男装を禁じる宗教規範はありません。建国神話の英雄ヤマトタケルは少女の姿でクマソタケル兄弟を倒しました。観音様は男性ですがしばしば女性に変身します。歌舞伎の女形、宝塚の男役など性別越境の芸能をこれほど愛し、女装の演劇者を「人間国宝」として礼遇する国は世界で日本だけです。

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 そうした異性装の豊かな文化・寛容な社会の伝統をTERFのような外来の差別的な思想によって損なうとしたら、大きな社会的損失です。私たち日本のトランスジェンダーは、そうした伝統文化に支えられて、2000年に近い長い歳月を生き抜いてきました。これからも日本社会の一員として生きていきます。

 最後にそれでも「俺は男が女になるなんて気持ち悪いなぁ。そんな奴ら世の中から消しちゃった方がいいんじゃね」と思っている人もいるかもしれません。しかし、マイノリティの人権をないがしろにする社会では、あらゆる人の人権がないがしろにされます。

 あなたは「肉屋を支持する豚」ですか?

(付記)排除派のツィートは、これを読む当事者(トランス女性)の心理を考慮して、そのままではなく表現を和らげています。