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勝手に評価 パ・リーグの球団歌をすべて弾き語りして気付いた“6球団の個性”

文春野球コラム ペナントレース2019

2019/05/19
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「雨空」から「晴天」へ変わる空模様を表現した「SKY」

 福岡ソフトバンクの「いざゆけ若鷹軍団」はパ・リーグで一番メジャーな球団歌かもしれない。親会社がダイエーからソフトバンクに変わっても球団歌は同じ曲を歌い継いだのが大きかったのだろう。実はこの曲、楽曲としても非常に凝っており、実はファンクミュージック(ジェームス・ブラウンがあまりに有名なブラックミュージックのジャンル)調の16ビートで構成されている。BPMは130、こちらも「Aメロ」そして「Bメロ」と続くのだが、その後「サビ(Cメロ)」に行く前にかなり効果的な「キメ」が存在する。「それっ」と掛け声をかける箇所である。あの「キメ」をきっかけに壮大な「サビ」へと移行するこの曲は、実は最も近代的な構成とも言えるだろう。一方、楽曲が近代的なのに対し歌詞の方は割と古風である。パンチラインは「栄光目指し羽ばたけよ」のくだりだろうか。パワーワードは「疾風のごとく」「無敵の」「炎の」。歌詞に古典表現を交えて曲に重厚感を加えている。そういった意味で福岡ソフトバンクを球団歌から判断すると「近代的なポップ感を演出しながらも、その実、本質はガチガチの堅物感が垣間見えますよ球団」なのではないだろうか。考えすぎか。

 そして「はばたけ楽天イーグルス」はどうだろう。「SKY」と同い年の2005年発表、BPMは126、「We Love Marines」や「ファイターズ讃歌」とほぼ同じ速さでBPM的にはチームアンセムの王道BPMと言えるだろう。「白銀の夢から~」から始まる「Aメロ」は非常に綺麗なメロディーで印象深いフレーズである。こちらも「Aメロ」、「Bメロ」と続き、そして球団名を連呼する「サビ」へと続いて行く。歌詞の話に移せば、実はこの楽曲が一番「古風」なのではないだろうか、「燃ゆる」とか「少年よ」とか「命あるかぎり」など古典的な表現が次々と続いていく。メジャー進行(音楽スケールの用語で「明るい」音符の流れ)のメロディーにそういった古典表現が乗るため、楽曲的に「切なさ」を醸し出している。歌詞を全体的に分析した場合、「比喩的」そして「抽象的」といった印象も覚えるかもしれない。それほど表現の美しさに重きを置いた楽曲という事だろう。東北楽天を球団歌から判断するならば「ひたむきに生きる東北人の芯の強さと共に歩むを強調しすぎた球団」といったところではないだろうか。あくまで勝手な評価である。

 最後に「SKY」のオリックスはどうかって? 球団歌の中で一番最後に生まれた事もあり、ブラスセクションとエレキサウンドが印象的な現代的ロックナンバーと言えるのではないだろうか。BPMは128。同じく「Aメロ」「Bメロ」「サビ」で構成されるのだが、敢えての狙いで「サビ」に向かう為だけの「Bメロ」は入れないようにした作りとなっている。どちらかと言えば「Aメロ」「サビ.1」「サビ.2」と感じるのではないだろうか。歌詞についても「一雫だけの雨」「大河を映す」などの比喩表現から「光り輝く明日に向かえ」や「全て掴む」など前向き鼓舞型ワードまで散りばめられている。マイナー進行(音楽スケールの用語で「暗い」音符の流れ)からメジャー進行へと転換する流れは「辛く苦しい戦い」から「勝利への歓喜」に繋がる「雨空」から「晴天」へ変わる空模様を表現している。うん、手前味噌だが良い球団歌だと思う。さすがオリックス。そしてオリックスを球団歌から判断したならば「よくもまぁ、こんなギターのうるさいロック音楽を球団歌に採用したなと感心するほど、新しいものが大好きなクリエイティブ集団がひしめく球団」なのではないだろうか。言い過ぎか……。

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