車椅子で街を駆け抜ける赤毛の男、ジョン・キャラハン。その疾走感にまず目を奪われる。10代から酒に溺れ、21歳の時に事故で胸から下が麻痺したジョンは、やがてアルコール依存症を克服。風刺漫画家として活躍し、激動の半生を回想録として出版する。その映画化を熱望していたのは、俳優ロビン・ウィリアムズ。彼から監督として声をかけられたガス・ヴァン・サント監督は、ロビンが2014年に亡くなった後、主人公ジョン役をロビンからホアキン・フェニックスに変更、脚本を書き直し、映画『ドント・ウォーリー』を完成させた。劇中には、ジョンが描いた風刺漫画も数多く挿入される。
「ジョンの漫画にはたしかにある種の辛辣さがある。でも彼自身は、自作への反応を気にして、いつも人に感想を聞いてまわっていた。大胆なようでとてもシャイな人でもあったんだ。僕が惹かれたのも、そうした彼の人間性だよ」
ジョンは、断酒会で、そして漫画家としてスピーチをする壇上で、断片的に自分の人生を振り返っていく。
「伝記映画というより、一つの大きな流れの中で彼の人生を語りたかったんだ。だから直線的なつながりのある場面をあえてつくらず、それぞれのエピソードが互いに呼応しあうようにつなげていった」
脚本だけでなく、撮影方法にも一貫したスタイルがある。
「絵コンテを使って撮影をしたのは最初の作品『マラノーチェ』だけ。以降は、シーンごとに俳優たちの動きと立ち位置を確認し、その都度調整する作業(ブロッキング)を重視している。それによって、キャラクターの動きにリアリティを与えられるんだ」
たしかに本作での俳優たちの演技はとてもリアルで、まるでドキュメンタリーを見ているような錯覚に陥る。
「それはカメラの動きのせいもあるだろう。カメラは常に人々の動きに沿って動くし、時に話し手の顔をズームアップする。それが生々しい印象を与えるんだと思う」
俳優への演出の秘訣とは。
「現場では『こんなふうに演技して』とか『目線をこっちに』なんて細かい演出はしない。僕の仕事は、彼らを正しい位置につかせて『さあどうぞ』と言うだけ。方向性を示さないことが、逆にリアルさの追求になっていくんだ。役者がまだ準備ができていない状態でカメラをまわし始めたり、あえて聞こえない声で『カット』と言ったりもする。そうすれば、俳優はより自然な状態を見せてくれるから」
ジョンが参加する断酒会では12個のステップが課されるが、その最後のテーマが興味深い。「人生の様々な側面に応用できるよね」と監督が語るそのテーマとは、自分も、他人も、すべてを許すこと。
Gus Van Sant/ケンタッキー州出身。『マイ・プライベート・アイダホ』(91)、『誘う女』(95)、『グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち』(97)、『ミルク』(08)など多くの名作を世に送り出し、数々の賞を総なめに。『エレファント』(03)はカンヌ映画祭最高賞パルムドール、監督賞をダブル受賞。
INFORMATION
『ドント・ウォーリー』
5月3日(祝・金)よりヒューマントラストシネマ有楽町、ヒューマントラストシネマ渋谷、新宿武蔵野館ほか全国順次公開
http://www.dontworry-movie.com/