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ストーカーに豹変した恋人は前科があり、偽名を名乗っていた――内澤旬子「ストーカーとの七〇〇日戦争」

恐怖のストーカー体験リアルドキュメント #2 前科

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「絶対に、絶対に持ち帰らないでください」

 も、もちろんです! と頷きながら、不安が真夏の積乱雲のごとくむくむくと湧き上がる。Aは、やっぱり相当な罪を犯して服役していたのではないだろうか。警察署は、Aの本名すら教えてくれないのであるから、もちろん前科前歴の有無を、教えてくださるわけがない。

「それでですね、援助申出書を提出してもらいます。110番登録ができます。それから、警察署直通のキッズ携帯の貸し出しもできますが、どうしますか」

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 110番登録、正確には110番緊急通報登録システムという。ストーカー規制法に基づき、あらかじめ登録した電話番号から110番通報があった場合、所轄の警察署や現場急行中の警察官に対して登録者からの相談内容等、必要な情報を円滑に指令、共有することが可能となる。

※写真はイメージです ©iStock.com

キッズ携帯の操作、私に全部覚えられるだろうか

 町を歩いていて尾行されていると気づいたときに、110番をかけたとする。かけたことがないけれど、おそらく登録なしで110番をダイヤルしたら、自分の置かれている状況を、一から説明しなければならないのだろう。ありがち。アワアワしながら説明してるうちに危険な状態になったりするかもしれず。最悪の場合には殺されるのかもしれないし。

 これまで現場で起きたことを踏まえて、できた制度なのだろう。前もって番号を登録していれば、電話を受け取った係官が、これまでの相談内容や、加害者情報などにすぐアクセスできる。こちらがいかにアワアワしていようが、ある程度は察してくれる。現場に来てくださる警察官にも、被害者および加害者の情報が入る。たいへんありがたく心強いシステムだ。ぜひよろしくお願いします。

 ついでに被害者通報端末、キッズ携帯の貸し出しもお願いしたいです。1+決定ボタンで、110番につながるだけでなく、紐を引っ張れば防犯ブザーが鳴る。さらに通信指令室の110番システム端末画面上に「被害者通報端末発報中」とポップアップ表示。通信指令室員が「解決ボタン」を押すまで、通報者の位置情報が指令室に送信され続ける。

 また、「もどる」ボタンを2秒以上長押しすると、音は鳴らない、つまり接近してきた加害者に気づかれないまま通信指令室の110番システム端末画面上にポップアップ表示され、「解決ボタン」を押すまで以下同、だそうだ。

 ううむ。このキッズ携帯の操作、私に全部覚えられるだろうか。簡単なようだが、いざというときに直面しない限り、どのボタンも決して押せないのだ。押したらつながっちゃうんだもん。自信がないけれど、心強いことは確かなので、こちらも充電器とともにお借りする手続きをした。