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ストーカーに豹変した恋人は前科があり、偽名を名乗っていた――内澤旬子「ストーカーとの七〇〇日戦争」

恐怖のストーカー体験リアルドキュメント #2 前科

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 さらに、相談内容を記録するということで、これまでAから私に送られてきたメッセージの内容を控えたいという。けれどもスマホの画面を印刷する方法が、誰にも分からない。スクリーンショットを警察のどなたかにメールで送れば済む話なのだが、警察署にメール送信することはできないのだった。サイバーテロなどの対策で、そうなっているとのこと。仕方ないので、鑑識課にいくつかの画面を撮影してもらった。ああ、気色悪いメッセージがどんどん他者の目に晒(さら)されていく。仕方ないとはいえ、そこまでの心の準備をしてきたわけではない。脳をおろし金で摺(す)られているような気分だ。

 今後は加害者と接触はしない。SNSでの交流も、避ける。そして「今から行く」「ぶち殺す」など、身の危険を感じるメールが来たらすぐに生活安全課に電話をする。姿や車が見えたら、110番。そしてもし島に来たらすぐに生活安全課に電話してくださいと言われ、放免となった。

※写真はイメージです ©iStock.com

何時間、警察にいたのだろう

 手元に残る書類によれば、このほかに「ストーカー・DV等への対応について」という警察への要望書を提出したはずだ。これは警察に相談に行ったら必ず記入し署名を入れて提出するもの。要望というのは、この相談案件にたいして、刑事手続きをとるのか、行政手続き(ストーカー規制法に基づく警告書)をしてほしいのか、それとも今は決心できないのかなどが選択肢として示され、該当する項目に丸をつけるというものだ。何か質問票のようなものに○をつけさせられたのは覚えているが、自分がどこに丸をつけたのか、さっぱり覚えていない。マグショットを突き付けられた上に偽名を使われていたショックが大きすぎた。そもそも逮捕してもらおうと相談に来たわけではないのだ。島で変なことを触れ回って騒ぎになる前に一言報告しておこう、くらいの気持ちで、Aに注意してくだされば、ラッキーくらいに考えていたのだ。

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 外に出たら真っ暗闇だった。何時間、警察にいたのだろう。

 えらいことになってしまった。家に帰る前に、寄らねばならないところがあった。Bさんの家である。小豆島に引っ越して以来、親戚のような付き合いをしている。彼女には、実に不思議な魅力があり、彼女自身も島に移住してきてまだ間もないのに、何人もの若者たち(主に移住者)に慕われていた。小豆島には彼女だけでなく実行力や交渉力のある30代、40代の移住者たちがネットワークをつくっていて、音楽祭などさまざまなイベントを起こしていた。