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 付き合い始めたとき、Aにはそんな話もしていたし、Bさんをはじめとする島の友人たちを何度か紹介しようとしたのだが、Aにはそのたびに頑(かたく)なに拒否された。じゃあもういいよ、と思って誘うのをやめたのだが、今になって、Bさんの家に行くと何度も言ってきているのだ。私がいかに酷い人間かをBさんに曝露してやると。私の人間関係やキャリアを壊したいのだろう。なぜそんなに卑怯なことを考えるのだろう。

 もし島に来たとして、奴の言葉を信じるならば、Aは私の家でなくBさんの家と、例の知り合いの知り合いですらない、浮気相手だと思い込んでいるどなたか知らない人の家を目指すことになる。私のところに来られるのも嫌だが、他人の家で何かしでかしたらと思うと、さらに胃が痛い。Bさんにかいつまんで事情を話した。

「うん。いいよ。A君がうちに来たら会ってみるよ。大丈夫」

 いや、話をしてくださるのはありがたいけど、避難したほうが良くないですか。

「だって避難するところもないもん。全然気にしなくていいよ。A君に会ってみる。これまで、いろんな子たちの相談にのって面倒見てきた。危ないのも、精神的におかしくなっちゃってた子もいたよ。」

 Bさんがそういう人なのは分かっています。私だってこれまでの人生で、Bさんにはたくさん助けられたし、励ましてきてもらいました。でも今回のケースはあまりにも酷い。これまでBさんと一度も会ったことすらない男ですよ?

「まあ、とりあえず、様子を見るしかないよ。ジュンコちゃんはどっかに避難した方がいいよね」

 はい。メッセージでは明日来るって書いているから、たぶん今晩やって来ることはないと思うんです。あ、来ようにも、もう最終フェリーが出たあとか。そうそう。高速艇は夜行便がまだあるけど、車ごと上陸しないと島内移動できないからね。こういうとき島ってのはいいもんだ。私は明日早めに避難するようにします。

※写真はイメージです ©iStock.com

Aが愛ヤギのカヨに何かするのではないか

 家に戻ってすぐ、ヤギのカヨを預かってもらっている友人に電話をするためにスマホを開いた。出張から戻ったら迎えに行くはずだったのだが、しばらくそのまま預かってもらわねばならない。気がかりなのは、その友人によくヤギを預けていることを、Aが知っているということだ。もし私の家に来て、ヤギがいないとなったら、友人の家を探しに行くのではないだろうか。心配し始めると止まらない。

「いやー、内澤さん、惚れられちゃいましたねえ(笑)。うちは全然大丈夫ですよ。で、もしうちに来ておかしなことしようとしたら、思いっきりやっちゃっても、いいってことですよね?」

 腕に自信のある友人が目を光らせているのが、声で分かる。いや、それはどうかな。私からはなんとも……。警察呼んでくださいね。ホントに申し訳ない。たぶん私を困らせたいだけだと思うので、そちらで暴れることは、ないとは思うんですけど。

 だけど。実は友人には伝えなかったが、私が一番心配なのは、Aが愛ヤギのカヨに何かするのではないかということだった。カヨを見張りに友人の家に行くわけにもいかないし、かといって避難先にヤギは連れていけないし。まあカヨが今繋がれている場所に行くには、かなりの傾斜地を登攀(とうはん)しなければならない。Aは普段運動もしていないし、体力もあまりないので、歩き回って探すということができるかどうか、微妙なところだ。