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中学生の時に車にぶつかるようにして綾辻行人の〈館〉シリーズに出合い、大きな衝撃を

 

――それにしても、本作でも国際問題から仏教などの知識まで、本当に幅広い教養をお持ちだなあ、と。どういう少年時代を過ごされたのですか。

米澤 スポーツ少年でしたよ。と言っても誰も信じてくれないですけれど。

――高校時代は弓道部でしたよね。なぜ弓道?

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米澤 中学校の時はスポーツをやっていなかったので、高校に入った時に、みんな同じようなスタートラインから始められるスポーツがいいなと思ったんです。

――物語を作ることはもっと幼い頃から始めていますよね。

米澤 読むことよりも先に、書くことがあったんですよね。小学校の登下校の間や、帰ってきてからもずっとお話を考えていて、中学校の時にそれらが小説という形をとりうるんだ、と気づきました。中学、高校の時には明らかに、何らかの形でお話を作って生きていくんだろうなあと考えていましたね。それが果たして小説なのか、脚本なのか、どういう形を取るのかは分かりませんでしたが。

――小説はどのようなものを読みましたか。特に、ミステリーとの出合いは。

米澤 中学生の時に、まったく予備知識もなく、交通事故でドカンと車にぶつかるようにして綾辻行人の〈館〉シリーズ(『十角館の殺人』など/講談社文庫)に出合い、大きな衝撃を受けました。でもそこから新本格の読書が広がっていくわけではなくて、高校時代はあまり読んでいなかったんです。翻訳ものでクリスティーの『なぜ、エヴァンズに頼まなかったのか?』(田村隆一訳、ハヤカワ文庫クリスティー文庫)やハリー・クレッシングの『料理人』(一ノ瀬直二訳、ハヤカワ文庫NV)、マイケル・クライトンの『アンドロメダ病原体』(浅倉久志訳、ハヤカワ文庫NV)などは読んでいたんですが、ミステリーを体系的に読むことはしていませんでした。それをするようになったのは、大学に入って北村薫を読んでからになります。

――高校生の時にはすでに小説を書いていますよね。ポリスアクションでしたっけ。

米澤 その話をするのは、恥ずかしくなるので、忘れましょうよ……。

――なんでしたっけ、架空の国の話でしたよね。

米澤 ……。とある国で戦争があって、その国の兵士だけではとても戦いきれなくなった時に、余所の国から義勇兵たちがやってくる。で、その戦争には勝ったんだけれども、義勇兵たちが帰るに帰れないので治安が悪化するなかで、民間警備会社みたいなところに入っている主人公たちが義勇兵のテロ計画をつかむ。それがどうも、主人公と戦争の時に同じ小隊にいた人間がテロリストのリーダーらしい。で、その小隊というのは、戦争の終盤で主人公が銃を撃てなかったためにほぼ壊滅してしまっている。主人公はあの時撃てなかったがために壊滅した小隊の生き残りの戦友に向けて、銃を撃つことになる、というようなお話で。この最初の小説を書き終えた時には、目指すのは小説家なんだろうな、とはなんとなく思っていました。

――嫌々ながら早口で説明してくださってありがとうございます(笑)。ちゃんと物語ができているし、結末まで書き切ったのがすごいですよね。

米澤 書いている間はつまらないなと思いながら、でも書き上げなかったら何の意味もない、と思いながら最後まで書きました。

瀧井朝世

――え、書いている時、楽しくなかったんですか。それでなぜ小説家を目指す気になれたのでしょう。

米澤 今でも書いている最中はあんまり楽しくはないですよ(笑)。よく山登りに喩えるんです。準備している時はとても楽しい。でも登っている最中は暑いし、疲れるし、先は果てしないしでちっとも楽しくない。本当に汗だくになって「あと1歩だけ」と自分に言い聞かせながら歩いていって、山頂に着いて「やったー」となって、もう二度と山になんか来るものかと思いながら帰ってきたら、「次はどこの山に行こう」って考えている。あれによく似ているなと思っています。

――なるほどー。それで大学に入ってからも創作活動を続け、作品をネットに発表していたんですね。その頃はどういう話を書いていたんですか。

米澤 最初はショートショートでした。とにかく、いずれ物語を作る仕事に就くにあたって、考えたものを完成させなかったら意味がないと思ったので、毎日何でもいいからお話を考えて完成させようと思ったんです。1日1篇、3枚でも5枚でもいいからショートショートを書いて、一応仕上げる。発想を形にして「完」を打つ練習をしていました。

――その大学時代に北村薫作品に出合って、いわゆる〈日常の謎〉系を知ったんですよね。最初は〈円紫さんと私〉シリーズの『空飛ぶ馬』(創元推理文庫)でしょうか。

米澤 そうです。そこから東京創元社の〈日常の謎〉を書く日本人作家を柱に読んでいって、読書を広げていったという形になります。