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「遠い国の話を自分がどう受け取るのかという主題」にきちんと向き合いたいと思って『王とサーカス』を書きました――米澤穂信(1)

話題の作家に瀧井朝世さんが90分間みっちりインタビュー 「作家と90分」

2015/09/12

genre : エンタメ, 読書

note

高校生が主人公の「学園&日常の謎もの」の先駆け的な作品

――さて、学生時代の創作活動に話を戻します。ご自身でも〈日常の謎〉を書きはじめるわけですよね。

米澤 もともと自分の小説が理で書かれているなというのは思っていました。それでもって「日常の謎ミステリー」というものを書いてみると、すごく文章と合っている気がしたんです。書きやすかったというか、馴染んだ。それで「ああ、これか」と思った憶えがあります。

――ネットでの作品が読者投票で1位になったことがあると聞きました。

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米澤 それが『氷菓』(01年刊/のち角川文庫)の原形なんです。もともとは大学生の話だったんですが、ネットに発表した時はもうすでに舞台を高校に変えてありました。

氷菓 (角川文庫)

米澤 穂信(著)

KADOKAWA
2001年10月28日 発売

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――在学中に『氷菓』で新人賞に応募し、卒業して書店に勤めている頃に受賞の知らせがくるわけですね。角川学園小説大賞に応募したのはどうしてですか。

米澤 これは結構あちこちで書いているんですが、本来は別の賞に投稿しようとしていたんです。その別の賞が12月31日消印有効くらいの締切だったんですね。ギリギリに仕上げてプリントアウトしようと思ったらトナーが切れていて、電気屋の人に聞いたら「日本アルプスを越えた先なら在庫がある」と言われ、とても買いに行けないなと思って(笑)。それで、その賞への投稿を諦めて、次に締切が近いミステリーの賞を探して、角川学園小説大賞に送りました。

――『氷菓』は無駄なことはしない省エネ主義の高校生、折木奉太郎が、学校周辺の謎に遭遇しては、毎回探偵役を担うことになる。米澤さんの〈日常の謎〉は、青春の生きづらさとミックスされているところに魅力がありますね。もともと青春小説も書いたことがあったと、以前インタビューでおっしゃっていましたが。

米澤 ああ、そんなことまでしゃべりましたか……!(笑) まあ、ちょっと痛々しい感じの青春小説を書いていまして。小説としてそういうものに憧れていたというよりも、常々思っていたことをそのままぶつけたような内容だったと思います。

――その常々思っていたことというのは。この『氷菓』に始まる〈古典部〉シリーズにも反映されていますか。

米澤 熱狂する時代の中で、その熱狂に与することができないがゆえに、多数派に圧殺されていく子たちの話であるところに、少し出ているかもしれません。

 このシリーズでは、自分の体験も書いています。文化祭でビデオ映画の脚本を書いて、「ここがおかしい」「あそこがおかしい」と言われて「じゃあおまえらが書けよ!」という気持ちを抑えていたこととか(笑)。

――最初からシリーズ化するつもりはなかったんですよね? 結果的に、高校生が主人公の「学園&日常の謎もの」の先駆け的な作品となりましたね。

米澤 結果的にそうなって、意外な気がしています。もっとも、たとえば山田風太郎の『青春探偵団』(ポプラ文庫ピュアフル)で、高校生が〈日常の謎〉っぽいことはやっていますね。当時はまだ〈日常の謎〉というジャンルはありませんでしたが……。〈古典部〉はシリーズ化しようと考えていたわけではないんですけれど、投稿して受賞するかどうか分からない段階から、彼らの2作目を書きはじめてはいました。

――あとがきで、先行するミステリー作品に触れることが多いですね。『愚者のエンドロール』(02年刊/のち角川文庫)ではバークリーの『毒入りチョコレート事件』(高橋泰邦訳、創元推理文庫)、『遠まわりする雛』(07年刊/のち角川文庫)ではハリイ・ケメルマンの『九マイルは遠すぎる』(永井淳・深町真理子訳、ハヤカワ・ミステリ文庫)など、『ふたりの距離の概算』(10年刊/のち角川文庫)ではマイクル・Z・リューインの『A型の女』(石田善彦訳、ハヤカワ・ミステリ文庫)など。ほかには、登場人物の名前が江波だったりとか(笑)、先行作品への敬意を感じます。

愚者のエンドロール (角川文庫)

米澤 穂信(著)

角川書店(角川グループパブリッシング)
2002年7月31日 発売

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遠まわりする雛 (角川文庫)

米澤 穂信(著)

角川書店(角川グループパブリッシング)
2010年7月24日 発売

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ふたりの距離の概算 (角川文庫)

米澤 穂信(著)

角川書店(角川グループパブリッシング)
2012年6月22日 発売

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米澤 遅咲きだったとはいえやっぱりミステリーは大変好きなので、自分の小説がミステリーの楽しさを知る入口になってくれれば、という思いはあります。ミステリーの発想の幅広さにはずっと惹かれているので、こういうこともできるんだよ、ということを〈古典部〉シリーズをきっかけに知ってもらえたらいいですね。

 

――ちなみに、読者の方々からの質問でいちばん多かったのが、「古典部シリーズと小市民シリーズの続篇はいつ出るのでしょうか? わたし、気になります!」というものです。「わたし、気になります」は〈古典部〉シリーズの千反田さんのお約束の台詞です。

米澤 別に決め台詞にしようと思ったわけではなく、もうちょっと気の利いた言葉に変えるつもりだったんですけれど……(笑)。続篇はまた『野性時代』さんに書かせていただきたいなと思っています。次は短篇を書く予定です。それと中篇1篇を書いて、できれば来年中に本を出せたら……。

――お待ちしております。

(2)に続く

「遠い国の話を自分がどう受け取るのかという主題」にきちんと向き合いたいと思って『王とサーカス』を書きました――米澤穂信(1)

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