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北村薫さん以外に好きな作家3人は?

――他にはどんな方がお好きだったのでしょう。よく泡坂妻夫さんのお名前をおっしゃっている印象がありますが。

 

米澤 泡坂妻夫のことはあまりに言いすぎたので、最近言わないようにしているくらいです(笑)。はじめて読んだのは大学生の時ですね。深いんですよ。内容が奥深いとかメッセージが深いというのではなしに、著者の人生観と教養が深い。それがすごくミステリーを豊かにしているんですよね。「ああ、小説の豊かさというのはこういう形で現れるのか」と思わせる深い人生観がありつつも、それを表に出さない洒脱さにものすごく惹かれました。

――とりわけ好きな作品は。

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米澤 『乱れからくり』(創元推理文庫)です。

 他にすぐ挙がるのは連城三紀彦。すごく好きで憧れて、あの文章を学び取れないかと思って研究してみたんですけれど、全然駄目でした。私は登場人物をわりとシルエットで発想してしまうんですけれど、連城先生は映画や舞台の人だからか、文章が非常に映像的なんですよね。自分とタイプが違うので真似しようと思ってできなかったと言うと「おこがましい」と言われそうですが。

 作品を挙げるとするとどう考えても『戻り川心中』(光文社文庫)になってしまうんですけれど、『宵待草夜情』(ハルキ文庫)にします。すごく好きな作品がいくつも入っているので。

 もう一人、すぐ浮かぶのは山田風太郎です。歴史的なものの見方、知識、洞察というものが小説を豊かにしていくところがものすごく好きでしたし、憧れていました。

 風太郎はたびたび「端倪すべからざる運命の落とし穴」という言葉を使うんです。体が弱くて戦争に行っていないことなどもあってか、ものすごく死生観が乾いている。でも皮相的じゃない。書き手が人生をどうとらえているのかは、陰に陽に、これだけ小説全体を支配するのだ、ということをつくづく思いました。

 好きな作品を挙げると、スタンダードになってしまうんですが、『警視庁草紙』(河出文庫ほか)。『明治断頭台』(角川文庫ほか)のほうが好きなんですが、『警視庁草紙』の、あの全員死に残り生き残った感じがするところが……。江戸が東京に代わるなか、江戸っ子であろうとする登場人物たちがいるけれども、彼らの個人的な思いを置き去りにして時代はどんどん明治になっていく。それと、いつも主人公に振り回される仙台出身のおマヌケな巡査がいるんですが、彼は戊辰戦争の時に子供を亡くしているんですよね。それでこれから西南戦争だとなって出動することとなった時、これで薩摩への恨みを晴らせると、それまでおくびにも出さなかった恨みが噴出する。あれは衝撃でした。

 他には辻真先先生ですね。小説、ミステリーって楽しいなとつくづく思いました。『天使の殺人』(創元推理文庫)、『ピーター・パンの殺人』(大和書房)……。やっぱり青春三部作が面白かったおぼえがあります。『仮題・中学殺人事件』、『盗作・高校殺人事件』、『改訂・受験殺人事件』(以上創元推理文庫)ですね。

――山田風太郎のように、ご自身が書くものにも自分の人生観が表れていると思いますか。

米澤 恩田陸さんの『三月は深き紅の淵を』(講談社文庫)のなかに、小説家本人というのは小説にとって、あってもなくてもいいものだという考え方が書かれてあったと思いますが、私はそちらのほうに強いシンパシーをおぼえます。私の小説を読んでくれるのはありがたいけれども、私自身はどうでもいいよね、とは思う。だけど、そうはいかない。日ごろ皮肉な物の見方をしていれば小説は皮肉になるし、人生が幸せで彩りに満ちたものだとなれば、小説はそういう風に潤色されていく。そう思っています。