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10歳下の妻が「がん」になった――がん患者を家族にもった46歳男の本音

2019/05/09
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 今年2月、35歳の女性ライター・小泉なつみさんが自身のホームページでカミングアウトした「大腸がん」。病気やそれからの生活への不安を、家族はどう受け止めたのか。夫であるライターの平田裕介さんが明かします。

©iStock.com

「妻より先に逝ける」と思っていたら、彼女ががんになる

 目に見えない“服”みたいなものを着た感じ。

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 結婚したことで生まれてはじめて得た感覚がそれだ。ひとりではなくなった責任感と安心感を筆頭に“服”の素材はいくつもあるわけだが、それらが時に心身を窮屈にしたり、重くしたり、軽やかにしたり、温めてくれるといえばいいのだろうか。また息子が生まれたことで“服”の厚みはグンと増したし、簡単に脱げないなという覚悟も芽生えた。

 なかでも“妻は10歳年下”という素材は結婚をするうえで自分をものすごく心強くしてくれた。自分はまだ46歳かもしれないが、もう46歳でもある。人生の半分を終えたともうっすら感じていて、死に方もぼんやりと考えたりもする。そして、逝く時は妻よりも先がいいと望み出す。身勝手な話だが妻に遺されて悲しみを抱えて生きたくないし、妻がそばにいるなかで逝きたい。これは多くの既婚男性が願っていることではないだろうか。

 そんな風に、「生物学的に先に逝くのは10歳年下の妻ではなくて自分。これでジジイになって病気になっても心置きなく逝けるわ」と安心していたところで、彼女の大腸がんが発覚した。着心地の良かったはずの服のなかに、“針”が混入していたのだ。
 

がんがわかる直前の、妻とのやりとり。試写で観た『ボヘミアン・ラプソディ』の素晴らしさに感極まっており、のんきに映画を勧めていた。

「子宮あたりが痛い」と産婦人科に向かった妻から、「盲腸かもしれないから総合病院で検査する」とLINEで連絡を受けたのは、新宿ビックロの試着室。感動パンツに片足を突っ込みながら「薬で散らせば大丈夫だろ」と返事し、違う色に片足を突っ込んでいたら「入院の可能性が出てきた」と入ってきたうえに、入院に必要な持ち物のリストが送られてきた。慌てて電話すると「先生がすぐ旦那さんにも病院に来てほしいって」と告げられる。それでも「3、4日くらいの入院かな」と軽く捉えていた。