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10歳下の妻が「がん」になった――がん患者を家族にもった46歳男の本音

2019/05/09

妻が「ガン、癌、がん……」 衝撃で記憶を失くす

 先生から告げられた病名は盲腸ではなく腸閉塞。それも、大腸がんによって引き起こされたものかも知れないと続けられた。

 ガン、癌、がん……。35歳の妻からは結びつけ難い病名を聞いて、鳩が豆鉄砲を食ったどころではなく、鳩から豆鉄砲を食らわされるレベルの驚きと衝撃が到来。追い打ちをかけるようにがん相談員を紹介されたことで、「勝手にがん患者にすんな! なにを相談すんだよ?!」と今度は信じたくない気持ちから猛烈な怒りが沸き起こる。

 そこから病院を出て、保育園から息子を降園させ、家に帰るまでの記憶はまったくない。気づいたら1歳になる息子を抱いてウォンウォンと号泣、事情を聞いて駆けつけた母がそんな自分を引き気味で眺めていた。

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 少しして大腸がんと診断が確定してからは、なにをしていても死を意識してしまう。がんは治る病気になったとは承知しているが、やはり死の病気といった刷り込みは深く残っているものだ。吸って吐く息はすべてがため息で、なにをしていても「ハァ~~~」しか出てこない。なんとか仕事をしようとパソコンに向かえば、常軌を逸したため息の連続で画面は結露寸前に。

 ひとりで泣いているだけならばまだいいが、妻が退院するまでの2週間を1歳になる息子と過ごさなければいけないミッションも待ち構える。食事、着替え、排泄処理、保育園の送り迎え、入浴、寝かしつけなどなどを妻との見事な連携プレーでこなしてきただけに、いきなりワンオペ状態に放り込まれるのはさすがに辛いものがある。

妻が入院したことではじめて書いた、保育園の連絡帳。精神が不安定になっていた自分は、先生たちに号泣しながら毎朝毎夕の挨拶をしていた。

 自分の食事なんぞは後回しが当たり前、息子を抱えて用を足し、寝相の悪い彼がベッドから落ちないように無印良品の収納ボックスで防御壁を築き、寝かしつけてからは洗濯や洗い物に取り掛かる。やらねばならぬ仕事だってある。世のワンオペ育児を強いられているママやシングル・マザー&ファーザーはこんなに大変な想いをして毎日を送っているのか……としみじみする余裕すらまったくない。そしてすべてが終わると妻を想ってウォンウォンと号泣しながら寝入った。