やる気がある馬は儀式には向いていない
――元競走馬、となると競馬ファンも知っているような馬がいたりしたことも……。
佐藤さん いやあ、ないですねえ。競馬で活躍するような前向きな性格でやる気がありすぎる馬は儀式には向いていないですからね……。
――つまり競走馬としてはイマイチでも、皇宮警察のような場所で活躍することもできるわけですね。でもサラブレッドってどうしてもテンションが上りやすかったりしますよね。そこはおとなしい馬を見つけて調教を工夫しているのでしょうか。
佐藤さん 競馬だと、レース前にテンションが高くなっても能力を出せればいいと思うんです。でも、ウチの場合はそうではない。テンションが上がると暴れる可能性につながってしまいます。それに競馬や乗馬だと乗っている人によって馬も変わることがありますが、人と馬の組み合わせが変わるウチではないようにしないといけない。そこはどうしても私たちが乗って調教していくしかないですね。
「人の訓練も大事ですが、私の仕事は信頼できる“馬作り”」
――騎乗者の技術やクセに影響されにくい馬を作るわけですか。
佐藤さん 本番の儀式だと乗る人はどうしても緊張するんですよ。それで体が固くなって、足で馬体を挟んでしまう。それは馬にとって走れという合図なんですが、でもガーッと走られたらマズイじゃないですか。だからそういうケースでも落ち着いて走らないでじっとしていられる馬を作らないといけない。それこそムチを打たれても走らない、だけど必要なちゃんとした合図は受け入れて動いてくれる――と。騎乗者をカバーしてくれるくらいの馬を作る必要がありますね。
――騎乗者の技術を高めることも大事だけど、むしろ人を助けるくらいの馬を作るほうが重要だと。
佐藤さん 私はそう思ってやっています。もちろん人の訓練も大事ですけど、私の仕事は信頼できる馬を作ることでもある。乗っている人は儀式に出られるようになったらゴールなんですけど、私の立場だと馬を儀式に出せるレベルに作り上げたところが出発点、という感覚です。だから“はじめて”は人よりも馬のほうが緊張します。はじめて儀式に出る騎乗者の場合は、ベテランの馬に乗せておけば大丈夫。でも“はじめて”の馬はいくら調教していても多少の不安はありますから。