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ビニール袋を見せたり、太鼓を鳴らしたりする訓練も

――人も多いし物音もする場所に出る。その上乗っている人も緊張しているとなれば、馬も馬場で訓練しているときとは違う動きをする可能性もありますよね。

佐藤さん 馬は臆病な生き物ですから、ビニール袋が飛んできたり大きな音が聞こえるだけでもパニックになって暴れてしまうことがあります。だからあらかじめビニールを見せたり太鼓を鳴らしたりして、ハプニングに慣れさせる訓練もしているんです。臆病なぶん、賢い生き物でもあるので、馬自身が一度覚えてくれたら大丈夫ですからね。あとは普段の馬の様子を見て、様子がおかしかったらすぐに私たち技官が乗って直していくことも大切。本番前の雰囲気を馬が察知してテンションが上ってもマズイので、いつもどおりにしながら、その上で予め運動させて体力を使わせておいたりもしますね。

――本番での馬と騎乗する人の組み合わせも佐藤さんが決めているのですか。

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佐藤さん そもそも儀式に出る人は私が決められるわけではありません。1回の儀式では3人・3頭が出るのですが、その配置も階級とかで決まってくる。だから私ができるのは誰をどの馬に乗せるか、ということになります。そこで一番大事なポジションには確実なベテランの馬を使うとか、経験の浅い馬には技術の長けた皇宮護衛官を乗せるとか、そう考えて割り振っています。本番では何があっても大丈夫なように、馬と人のバランスですかね。

 

――かっこいい制服に身を包んで堂々と馬に乗って護衛する皇宮護衛官の姿は惚れ惚れするものがありますが、その裏で佐藤さんたち技官の皆さんの“馬作り”があるということですね。

佐藤さん 最終的には人と馬の信頼関係なんですよ。本番でなにか不測の事態があって馬が怖がっても、人を信頼していれば「ああ、乗っている人は動じていないから大丈夫だな」とわかってくれる。そういう馬をつくり皇宮護衛官の訓練をする。そして儀式では普通どおりに滞りなくできれば、それでいいのかなと思っています。

 

◆◆◆

 凛々しい騎馬の皇宮護衛官。傍から見れば、彼らは乗馬の技術にも長けた騎馬専門のプロフェッショナルだと思ってしまう。けれど、実は彼らも普段は別の業務に従事している皇宮護衛官のひとり。そんな彼らを訓練し、さらに安心して送り出せる馬を作る。“馬に乗って護衛する”というまさに皇宮警察らしい仕事の裏側には、ホンモノの馬のプロフェッショナルの存在があった。

写真=佐貫直哉/文藝春秋

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