初級・中級・上級と分けていて、儀式に出るのは上級レベル
――そうか、皆さん“馬が好き”とかそういうのとは別次元のところで騎乗しているんですね。
佐藤さん だから最初はすごく優しく指導しているんです(笑)。皇宮警察の内部では初級・中級・上級とレベルを分けていて、儀式に出るのは上級レベル。初級は乗り始めたばかりでだいたい50鞍くらいというところですね。
中級になると障害を飛んだりする訓練も入ってきます。で、中級くらいからは厳しくするんですけど、最初は優しく。騎乗者が何もしなくても私が号令をかけたら走ってくれるような馬をあてがったりして、自信をつけてもらうんです。で、中級以上になれば最終的に儀式に出ることが視野に入ってくるので、しっかり乗りこなしてもらわないと困るので厳しく。本番では何があっても乗っている本人が対応しないとダメなので。
――未経験者を訓練で鍛えて大事な儀式に出られるレベルにするというのはなかなか大変ですよね……。見た目にもスマートに乗っていないとダメでしょうし。
佐藤さん 馬ってこうすればちゃんと乗れるという決まった乗り方があるわけじゃないんですよ。同じ馬でも日によって状態が違うから、それに応じた乗り方をしないと。本番はただ乗っているだけではなくて護衛が本来の任務です。余裕を持って馬をコントロールして、柔軟な対応力も求められる。でも、それこそ私がアドバイスをしてどうにかなるものではない。本人の努力次第で、たくさん乗って身につけてもらうしかないんです。まあ、護衛第一課に来る皇宮護衛官たちは皆さん経験豊富な人たちばかりですから、それほど心配はいらないんですけどね。
「馬はすべて元競走馬、サラブレッドです」
――どのような人が騎馬での護衛に向いていると思いますか。
佐藤さん 技術があればいいというわけでもないから難しいんです。技術のレベルでは劣っていても、馬に乗ったらなぜか自信たっぷりという人がいると、馬も落ち着いて動いてくれる。ところが、本当は技術を持っているのに怖がって馬に乗るとそれが伝わって、馬の動きもおかしくなる。やっぱり不安を持って馬に乗る人は向かないかもしれません。自信がポイントではないでしょうか。だから、特に訓練の最初はたくさん褒めて自信をつけてもらうように訓練しているんです(笑)。
――続いて“馬”についても伺いたいところです。信任状捧呈式では東京駅前から皇居前広場まで、人通りも車通りも多いところを走ります。落ち着きのある馬じゃないと務まらないですよね。
佐藤さん 東京のど真ん中で日常的に活動している馬はそうそういないでしょうね。だから大事なのは馬選びからなんです。落ち着きのある、もっと言えばおとなしい性格の馬を優先的に入れていく。いまウチには14頭の馬がいますが、すべてサラブレッド。元競走馬です。乗馬クラブなどに在籍していた馬もいますが、基本的には競走馬を引退したばかりの4歳、5歳から引き取ってゼロから調教するようにしています。そのほうが儀式で使う馬を作りやすいので。