ではタイトル保持の史上“最年長”記録は?
将棋→故・大山康晴の59歳11カ月 (1983年3月、第32期王将戦で失冠)
囲碁→故・藤沢秀行の68歳4カ月 (1993年11月、第41期王座戦で失冠)
将棋の最年長タイトル保持の記録を作ったのは、故・大山康晴十五世名人で59歳11カ月。その大山は1983年3月、第32期王将戦七番勝負で米長邦雄棋王に1勝4敗で失冠したが、もし第5局を勝てば、還暦の誕生日をタイトル保持者として迎えることができた。
大山が凄まじいのは、そこから全棋士参加棋戦のNHK杯で優勝(1984年、60歳10カ月)、史上最年長のタイトル戦登場(1990年、66歳11カ月で棋王戦挑戦)を成し遂げ、1992年に69歳で亡くなるまで、トップクラスの竜王戦1組、順位戦A級に在籍したこと。現在の羽生は48歳なので、大山はそこから20年近く、第一線で活躍した大棋士ということになる。
「囲碁の記録は、藤沢秀行(ふじさわ・しゅうこう、現名誉棋聖)さんの68歳4カ月です。秀行さんのメイン舞台は、1977年に第1期棋聖戦でタイトルを獲得してから6連覇したこと。秀行さんはアルコールが切れない方で、番勝負の前から断酒するらしいんですが、それがなまじの努力ではなくて、幻覚が見えるらしいんですね。林海峯(リン・カイホウ、現名誉天元)さんが挑戦者になったときは、事務所で秀行さんが寝静まったところ、林さんが火の用心をして『先生、対局するまではお元気で』って帰ったらしくて(笑)、林さんがいかによい人だったかがわかりますね。
秀行さんは『初物の秀行』と呼ばれまして、棋戦ができると第1回の優勝経験が多かったです。気合を入れれば、ここ一番の力は他の追随を許さない人でした。
秀行さんと将棋界で付き合いがあったのは芹沢さん(故・芹沢博文九段)で、何人かのベテランの棋士は『芹沢さんが短命で終わったのは、秀行先生の真似をし過ぎて、朝からワインを飲んで、競輪競馬をやったせいだろう』と話していました。秀行さんの競輪は1回あたりの賭け金が100万以上、それを一日何レースも賭けるわけで、ある競輪場にひしまげた金網があるそうです。かなり借金も抱えて、日本棋院に借金取りが来て対局料が差し押さえになったそうですが、棋聖戦で勝って借金を返したといわれていますから、本当に命懸けだったんですね」(同前)
大山も藤沢も、ガンの手術を受けながらもタイトル戦の舞台で活躍している。息長く活躍するには、超人的な生命力も条件のひとつなのだ。