友人から「初めて本を読んで泣いた」と言われた
そんな決意で書き上げた小説には、二度と戻ってこない15歳の夏の鬱屈や憧れが封じ込められている。
「応募を勧めてくれた友人は本の虫で、小学校のときからいつも僕が書いたものを読んでくれていたんですが、初めて本を読んで泣いた、と言ってくれました」
作中には緑川が星野と書いたミステリも登場するが、
「実は、初めは作中作はなかったんです。最初に原稿を見せた中学の国語の先生のアドバイスで加えました」
物語の鍵となる自殺サイトについて調べていたとき、座間9遺体事件が起きた。
「日常のすぐそばに、死に至る裂け目があるんだということを痛感しました」
大人の描き方の老成ぶりにも驚かされる。成績が低迷する主人公への母親の助言がことごとくピントが外れていて笑ってしまうが、
「思春期の男子が一番ウザいと思うお母さんを書きました。母が『私のことこんなふうに思ってたの?』とショックを受けていたので、違うよと言いました(笑)」
父親に「どうだ学校は?」と聞かれ、「これは子供が答えづらい質問の第1位だろう」という一文もあるが、
「それは実体験ですね(笑)」
著者自身は両親から怒られたことも殆(ほとん)どない好青年だが、人間関係や将来の夢についての、誰にも知られたくない心の揺れも痛々しいほど誠実に描かれている。
「つい誰かに合わせてしまう情けなさは僕も感じていること。僕らの世代だったら誰でもわかる心情を書いたつもりなので、同世代に読んでもらえたら嬉しい」
将来は理系志望。部活は辞め、今は待望の第2作を執筆中だ。「小説家はぼっちじゃない」のである。
つぼたゆうや/2002年東京都生まれ。慶應義塾普通部を経て現在慶應義塾高校2年生。中学3年生時に執筆した『探偵はぼっちじゃない』で第21回ボイルドエッグズ新人賞を受賞。たちまちamazonで品切れになり重版がかけられた。