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深刻な心因性ED患者への注射治療「すぐに行って下さい!」

 糖尿病の進行も神経障害を起こすため、バイアグラは効かなくなる。こうした症例や若者に多い心因性のEDに有効なのが、プロスタンディンという薬を使った海綿体注射である。

「日本性機能学会として、患者による自己注射を認可してほしいと、厚労省や大臣に要望してきましたが、認めてもらえませんでした。方針転換をして、テスト薬としての認可を要求しましたが、小泉政権下では適用されませんでした」(同前)

 永井教授らの日本性機能学会とは別に、人工肛門や人工膀胱保有者のための日本オストミー協会、全国脊髄損傷者連合会も請願書を提出。厚労省との面談を重ねた結果、2011年、テスト薬としてようやく承認されたのだ。

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 世界中で利用されながら、政府が頑なに拒み続けるのは、自己注射で万が一事故が起きた場合の責任を怖れるためと思われる。

「糖尿病などのインターフェロン注射は皮下注射だが、海綿体は皮下ではなく血管のかたまり」という理屈が政府の見解である。少子化を問題視しながら、子作りには非協力的な政府の矛盾した姿勢である。

「医者によるテスト薬の注射は、患者さんにとって非常に気の毒なんですよ」と、永井教授は言う。

「30代後半のある患者さんは、真面目な性格で、心因性のEDでした。性交の際に極度の緊張状態になるため、勃起に必要な一酸化窒素が十分に出ないのです。この夫婦はどうしても子供が欲しいということで注射を行いました」

 注射をすると、10分くらいで勃起をする。本来は医師が手で触り、「硬くなりましたね」と確認をするのだが、そんな余裕はない。勃起の持続時間は約2時間。病院の会計も注射の前に済ませておき、永井教授は注射をした瞬間、「すぐに行って下さい!」とダッシュさせた。男性は倉敷市郊外にある川崎医科大から車を走らせた。運転中に勃起が始まり、ラブホテルに到着すると、すぐに妻を抱き、慌ただしい性交の結果、子宝に恵まれたという。

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性教育が進まない 「教えない」日本の実情

 政府が性の問題に対して消極的なのは、勃起治療だけではない。深刻な事態を招いているのが、性教育の問題だ。

 女子栄養大学の橋本紀子教授がこんな話をする。

「先日、NHKスペシャル(『産みたいのに産めない~卵子老化の衝撃』)を250人の学生に見せたところ、卵子が老化するという事実を知っていたのは、わずか10人でした。35歳頃から急速に卵子が老化するのに、不妊治療に行く日本人は37歳くらいからです。EU圏では生物の授業で教えている(仏では教科書に掲載)のに、日本では教えていません。

 フィンランドには『人間生物学』という教科書があり、人体の構造から、受精、避妊、生命誕生、自慰や卵子の老化なども含めて取り扱っています。彼らはサイエンスとして学んでいるのです。日本では、なぜ一番大切な自分自身のことを教えないのか不思議でなりません」

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