香港の情勢は多少は沈静化したが、なおも動き続けている。香港返還記念日の7月1日に毎年恒例でおこなわれる平和的な民主化アピール「七一大遊行」に55万人(主催者発表、以下同じ)が参加して秩序だったデモをおこなういっぽう、別働隊の若者らが立法会(国会議事堂に相当)に突入。香港特別行政区の標章や歴代行政長官の肖像画などをスプレーで塗りつぶすなど、荒々しい抗議運動をおこなった。
平和的なデモによって意見を示すことが通例とされている香港で、一定程度の破壊行為をともなう過激な抗議活動がおこなわれたことには賛否両論がある。また、当初は逃亡犯条例改正案への反対という香港内の政治問題への異議申し立てとしておこなわれた運動の矛先が、徐々に北京の中央政府に向きつつあることも気がかりだ(もっとも、7日には九龍地区の繁華街で中国へのアピールを主眼にした大規模なデモが起きたが、平和的に実施された)。
「+1人」とは誰か
私は6月15日から18日まで香港を取材し、香港史上最大の200万人近い参加者を集めたデモ(200万人+1人デモ)をこの目で見た。膨大な数の市民が香港島の街路を何本も埋め尽くし、最後まで平和的に意見主張をおこなって解散する様子は感動的だったのだが、実はこのときからかすかに感じていた違和感がひとつだけあった。
そしてこの違和感は、時間がくだるごとに私のなかで大きくなってきている。
それは「200万人+1人デモ」という名称の理由と、これに対する少なからぬ香港人や香港長期在住者(日本人を含む)の受け止めかただ。この「+1人」が何者かというと、デモ前日である6月15日の夜、金鐘地域のビルから落下して死亡(事実上は自殺)した、35歳の抗議者のLという男性のことなのである。
※本記事は自殺に関連した記述があります。
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