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ネット発、リーダーがいない運動ゆえの弱み

 対して近年の香港も、家賃の高騰や就職難・低賃金など若者のストレスが大きな環境であり、面積が狭い大都市ゆえ閉塞感も強い。

 また、今回の香港の抗議運動は若者が中心で、デモの実施の詳細や逮捕・負傷の情報などもネットで先行して流れている。抗議者たちの情報源はフェイスブックやインスタグラム、テレグラムなどのオンラインによるものがメインとなっている。加えて運動全体の明確な中心となる人物や組織が存在しないことで、抗議方針や発信される情報の方向性は統一されていない。

 6月15日に発生したLの自殺が「意味がある」死をとげたような形になってしまったうえ、一部の報道や、内容の自主規制がおこなわれないネット投稿が自殺問題に盛んに言及していることが、現在の事態を生んでしまっているようだ。現在、香港の若者たちの連続自殺は、単なる政治的な意思の表出というだけではなく、徐々にウェルテル効果を感じさせる事態に変わりつつあると言っていい。

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7月2日、香港の連続自殺事件について言及する、運動リーダーの一人である周庭さんのツイート。日本語での発信とはいえ、若者たちの自殺を政権批判に結びつけるのは、後追い行動を呼びかねないリスクもあると思うのだが……

 私は現時点までの香港のデモについて、その目的についても平和的な抗議の方法についても、基本的には好意的な印象を持っている。だが、今回のデモが後世に残すであろう大きな問題もまた、参加者たちがLの死をなかば肯定的に評価してしまった6月16日の「200万人+1人デモ」のなかで胚胎していたと言っていい。

 香港の情勢はなおも流動的だ。6月9日の103万人デモと同16日の200万人近いデモは、結果的に民意の力で条例改正案の棚上げという一定の成果を勝ち取った運動でもあった。だが、その後日談は徐々に後味の悪いものになりつつある。