バックパッカーの旅に通じるような牧歌的な移動
自民党の演説会なのに、安倍政権の姿勢に批判めいた言動が飛び出すのも、そういう地道な努力から生まれた小泉演説の特徴だと思う。「アベノミクスの実感ありますか」、「突然の解散は腑に落ちないでしょ」、「軽減税率は必要ですか」などと問いかけ、野党的な発言を厭わない。
昨年からしきりに唱える「これからの政治は人との違いを強みに変えられるかが大事」というフレーズは、多様性の重視を訴える立憲民主党代表の演説を聴いているかのような気分にもさせられる。そんな彼特有の立ち位置が圧倒的多数の無党派層に受け、国民目線に近い政治家というイメージが広がった。
移動中のおもむきも、かつてはバックパッカーの旅に通じるような牧歌的なものだった。プラットフォームのベンチに座り、時には在来線の電車に飛び乗る。満員電車の中で立ちながら目的地に向かうこともあった。私は自然体の「近さ」こそがこの政治家の強みだと思ってきたが、人気の高まりとともにそれは「リスク」に変わったようだ。
党本部は将来を担うホープを傷つけまいと、神経をすり減らしている。2017年の衆院選あたりから演説会場で大勢の警官を見ることも増えた。総理遊説のように会場周辺に物騒な鉄柵が張り巡らされるケースはまだ少ないが、以前と比べれば、小泉と聴衆との距離は遠のいた。小泉自身も「アポイント」のない場所を自由に闊歩したり、行きずりの老若男女とゆったりと語らったりすることも少なくなった。
「これだけ期日前投票の投票率が上がれば、最初の3日が勝負だ」
選挙戦初日の夜も、小泉は横手の居酒屋には寄らず、逗留先の温泉旅館に向かったようだ。私は以前の取材中に聞いたこんなぼやきを思い出した。
「今まではできたのに、できないことが増えている。私の秘書、スタッフ、党職員などいろんな方が動かないと一人では動けなくなっている」
人気者も楽ではない。
小泉は公示後2日目、岩手県内の演説会場で「選挙のルールが変わった」と声を上げ、「これまでは選挙は最後の3日が勝負だと言われてきたが、これだけ期日前投票の投票率が上がれば、最初の3日が勝負だ」と訴えた。
実際、前日に回った秋田県では、2年前の衆院選で期日前投票の投票率が31.93%となり、全投票者の半数以上が期日前を利用した。小泉も演説の中では必ずと言っていいほど「どうかこのまま投票所に行ってください」と勧めている。
だが、この参院選の序盤戦を見る限り、過去の大型国政選挙よりも小泉が応援演説に立つ回数は少ない。公示直後の3日間でマイクを握った回数を前回の参院選と比べると、2016年は14回(5選挙区)だったが、今回は10か所(同前)。土日のスケジュールを比較すれば、前回は6選挙区の11回だったのに対し、4選挙区の7回にとどまる。
候補者たちが空中戦に力を入れる選挙サンデーの7月7日でさえも、激戦区の大分県に向かって羽田空港を出発したのは11時。今までにないスロースタートだった。