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2019/08/01

既存のヒトラー研究に足りなかったものとは

――分かりました。さきほど本書の「オリジナリティ」に言及がありましたが、既存のヒトラー研究には何が足りなかったのでしょうか。

舛添 従来のヒトラー研究は、当然のことながらドイツ中心に書かれていて、隣国からの視点とヨーロッパ全体の中にドイツを置くという視点が欠けていたと思います。その研究こそが、私の若い頃のフランス留学の目的でしたので、歴史資料を紹介しながら記したのが今回の本です。ヒトラーの性格分析など、どんどんミクロの視点に入り込んでいくのではなく、もう少しスコープを広げたいなと。それから、研究に「生活体験」ってとても大切だなと思うんですよね。

 

――実際に、研究対象の地で暮らすということですか。

舛添 そうです。我々は大学の時に、丸山眞男からヨーロッパ論や政治学について学びました。ただ実際にフランスへ渡って暮らしてみると、市民生活から気づくことが多くあった。

 例えば「なぜフランス人は、ドイツ人をそんなに怖がるのか?」という問いが出てきます。これは両方の民族と何度も会っているうちに、ラテン系フランス人は背が低い一方で、ドイツ人は背が高い。もっと言うと、2時間かけてワインとともにゆっくり食事をとっている国民と、ビールとパンとソーセージだけで手早く済ませる国民。おしゃべりが好きな国民と、規律正しく勤勉な国民。なぜフランスが安全保障をそこまで気にするのか、その理由の根本にある意識が分かるように思うんですね。

やっぱり相当、プロパガンダは効果があると思いますよ

――この本の中には、時々現代日本との比較が出てきます。ワイマール共和国憲法の大統領緊急命令(第48条)について批判的ですが、自民党改憲草案についてはどうお考えでしょうか。

舛添 政治の権力行使について考えるとき、性善説に立っちゃだめなんです。性悪説に立って、何が起こるか分からないという態度でいなければならない。ワイマール憲法第48条は、大統領に独裁を許すような規定です。自民党改憲案についても、基本的にああいうものを作るべきではないと私は思います。テロや災害が起こったとき、憲法条項を使わずに緊急事態基本法、災害対策基本法などの法律を適用すればいいのではないでしょうか。

ドイツの政治学者Werner Weidenfeld著『Die Englandpolitik Gustav Stresemanns』

――本の中でナチスのプロパガンダがいかに巧みだったかについても書かれていますが、現在、「#自民党2019」という同党の広報プロジェクトに対しても「プロパガンダではないか」という批判がありますね。どうご覧になっていますか?

舛添 あれは……あまり面白くないですよね。意図がばれてしまっていて、エンターテインメントになっていない気がします。とても古い手法を使っているので、若者ウケしません。むしろメディアの使い方としては、エノケンの喜劇や浪曲、そういった戦前のもののほうがはるかに上手かったんじゃないかと思う。センスが古いと、ネトウヨ的な、変な右翼の方向へ戻っちゃうんですよね。

 

――参考文献に名前が挙げられていた佐藤卓己氏のように、プロパガンダの効果に関して懐疑的な立場をとっている人もいます。

舛添 やっぱり相当、プロパガンダは効果があると思いますよ。

――政治家としての実体験から、そう思われますか?

舛添 うん、やっぱり全然違う。プロパガンダがなくては成功しません。学者と政治家って両立しないなと思うのは、学者は真実を言わなければならないけれども、政治家は真実を言っちゃだめなんです。だって、参院選の選挙戦を見たら分かるでしょう。全部アジ演説ですから。自民党大会での「悪夢のような民主党政権」発言だって、これ自民党の手柄ということではないですよね。