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70歳“前東京都知事”の舛添要一が『ヒトラーの正体』を出版「プロパガンダがなくては成功しません」

舛添要一インタビュー #1

2019/08/01
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 都庁を去ってから約3年。前東京都知事で国際政治学者の舛添要一さん(70)が、新刊『ヒトラーの正体』(小学館新書)を出版しました。刊行予定の情報が出回ったときから、ドイツ現代史界隈は騒然。一体なぜいま、舛添さんはヒトラーに注目するのか。聞き手は、近現代史研究者の辻田真佐憲さんです。(全3回の1回目。#2#3に続く)

舛添要一さん

なぜあらためて今ヒトラーなのか?

――まずはこの本、『ヒトラーの正体』の話からお伺いできればと思います。すでにヒトラーの関連書籍がたくさんあるなかで、なぜあらためて今ヒトラーなのでしょうか。

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舛添 私は50代になって政治の世界に足を踏み入れる前、もともとヨーロッパ政治を研究し、教えていた立場でした。現在の世界情勢を見ていると、ポピュリズムについてきちんと理解しておかなければいけない問題が数多くあると強く思っています。
 
 つい先日、トランプ大統領が4人の非白人女性の民主党議員に対して「国に帰ったらどうか」とツイートしていましたよね。こういうことを平気で言っちゃうような人が大統領になってしまう。しかし、支持率が5割近くあるというこの現象は何なんだろうなと。私がヒトラーに興味を持ってから、もう半世紀が経ちますが、ヒトラーは今日的課題でもある。今世界で起こっている危惧すべき状況を理解するために、ヒトラーとナチズムをもう一度検証したほうがいいんじゃないかと思ったんです。

 

簡単に言えば、山ほどある本を私なりの考え方でまとめた

――なるほど。まえがきでは「誰もが簡単に読めて、ヒトラーの全体像を理解できるような『ヒトラー入門書』のようなものがあれば便利だと思い、本書を書こうと思ったのです」という理由も挙げられていますね。一方で、ドイツ現代史の専門でないのにこのテーマに手を出すと、ちょっと危ないな、いろいろ突っ込まれそうだなという意識はありませんでしたか?

舛添 それはありました。だから、この本は内外の専門家による膨大な研究に依拠していることをあとがきでも断っています。私自身の海外での研究や国際政治の理論なども取り入れましたので、少しはオリジナリティがあるかもしれません。簡単に言えば、もう山ほどある本を私なりの考え方でまとめたということです。

 ただ、ネットのラジオ番組でヒトラーについて連続してしゃべる機会があった時に、聞き手の女性記者からは「えっ、そんなことがあったんですか?」の連発で、ラジオのリスナーたちも知らないことばかりだった。

『ヒトラーの正体』(小学館新書)のゲラ

――ネットラジオというのは、どういった番組ですか?

舛添 中国資本の「Himalaya」というアプリで配信した番組です。ヒトラーについて、ユダヤ人のホロコースト(大虐殺)や雄弁に演説する姿、ベルリンオリンピックの記録映画『オリンピア』(レニ・リーフェンシュタール監督)で知っている人もいるかもしれません。各人が抱くヒトラーのイメージは多様で、断片的だと思うんですね。
 
 私はヒトラーやナチスの専門家ではありません。しかし、研究者としてヨーロッパ政治外交史を専攻し、大学では政治学や国際関係史を講義するなかで、ナチズムに言及せざるを得ない場面が多々ありました。これはやはり、全体像を示したほうがいいと。