「嫌韓派、嫌中派、ネトウヨ」と、ヒトラーの反ユダヤ主義
――先ほど、ネトウヨという話が出ましたけれども、ヒトラーの反ユダヤ主義にふれる中で、「日本でも特定の民族に対するヘイトスピーチが行われています」と指摘したうえで、「ナチスと五十歩百歩」、「嫌韓派、嫌中派、ネトウヨと呼ばれているグループの中に、そのような人たちがいます」と書かれています。反ユダヤ主義と近いものを感じますか?
舛添 個人を見ていけばいい人も悪い人もいる。優秀な人もそうでない人も。しかし、民族を一緒くたに「よくない」という言説には近いものを感じますね。私が非常に危惧しているのは、SNS時代のほうがヒトラー時代よりヤバいんじゃないかということ。匿名性のある言説がどんどん拡散するでしょう。ゲッベルスが指示して起きた結果ではなくて、匿名の大衆が自ら発信手段を持って扇動し続ける世界のほうが、コントロールが効かないんじゃないかと思うんです。
「ヒトラー時代が一番よかった」と語った下宿屋の親父さん
――最後に、ヒトラーの政策をどう評価するか。功罪両面があればお聞かせください。
舛添 1980年、研究のために数カ月、ドイツ・ミュンヘン滞在中に私が宿泊していた下宿屋の親父さんがナチス政権時代の写真を見せながら、「ヒトラー時代が一番よかった」と語ったことがありました。その理由は、600万人いた失業者をほとんど完全雇用まで持っていったこと。それから源泉徴収や財形貯蓄などの制度を考案したこと。「悪いことばかりでなかった」ということですよね。親父さんの回想を、当時の私は疑問に思ったものですが、ヒトラーは憲法に則って首相に任命されました。つまり、国民が支持したのです。
ただ、もちろん反ユダヤ主義という思想は問題です。近代になってからも、この思想で大衆を扇動したことは、何事かと思います。この原因は、ベルサイユ条約の賠償金や失業によって国民全体が苦しんでいたなかで、どこかに敵を求めたいということがありました。
トランプ旋風、ヨーロッパにおける極右政党の台頭、イギリスのEU離脱。ヒトラー研究は、こうした現代における国際政治の課題を理解することにも大いに役立つと私は考えています。
写真=佐藤亘/文藝春秋