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車いすで世界一周に挑んだ僕が、アテネで謎のインド人についていき、最終的に自分を恥じた話

『No Rain, No Rainbow 一度死んだ僕の、車いす世界一周』(光文社)

2019/08/07
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 心も体も疲れきってしまった僕は、バックパックを床に下ろし、靴だけ脱いで、そのままベッドへ倒れ込んだ。すると、自分が寝ていた二段ベッドの隣のベッドの明かりがついた。おそらく起こしてしまったのだろう。申し訳ないことをした。

 寝ていたのはラテン系の若い女性で、車椅子をチラッと見ながら微笑み、小声で僕に向かって一言つぶやいた。

「大変だったね、私にできることがあったらなんでも言ってね!」

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 そのまま眠りについてもよかったところ、僕の気持ちを汲み取って安心させるような言葉をかけてくれた優しい彼女。

 つらいことのあとには良いことが待っている。そうしみじみ思いながら、瞳を閉じた。

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信じるべきか否か、謎のインド人現る

 1つの国での滞在日数は限られている。アテネでのお目当ては、パルテノン神殿一本だった。一応神殿までは車椅子でもアクセスできると事前に情報を得ていたので、タクシーでも捕まえて、まずは丘のふもとまで行こうと考えていた。

 身支度を終えてホテルから出ようとしたところ、目の前に1人のインド人の男が立っていた。まず、ちょっとびっくり。

 彼以外周りに人がいなかったので、入り口の段差を降ろしてもらうのを手伝ってもらい、お礼を言うと、彼が「これからどこに行くんだい?」と話し始めた。

 嘘をついてもしょうがないので正直に、「これからパルテノン神殿に行くんだ」と伝えると、

「そうか! でも車椅子1人であそこは無理だ。俺がとっておきの友達を紹介してやる。そいつがパルテノン神殿まで君を連れて行ってくれるだろう。13時にホテル前で集合だ。いいな?」

 おいおい強引だなーと思ったが、なぜかスッとその話を受け入れてしまった。でも、ツアーなどの類だったらお金を払うつもりはないからねということは、3回くらい念を押して伝えた。

 その後、近くで適当に昼食を済ませ約束の13時にホテルに戻る。しかし、紹介されるはずの友達の姿はなく、そこには先ほど会話したインド人1人だけが立っていた。

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 彼は「友達はちょっと忙しいみたいだ。だから俺が神殿まで連れてってやるよ」と言い、慣れた手つきで通りすがりのタクシーを捕まえる。いよいよ怪しくも思えてきたが、ひとまずついていってみた。タクシーに乗ると、ドライバーと英語なのかギリシア語なのかわからない言語で何かを話している。それでも車は、確かにパルテノン神殿へ向かっているのが分かった。

 丘を登り始めて、バスやタクシーがたくさん停まっているロータリーに辿り着く。本来観光客はここで降りるようだけど、インド人はドライバーに「もっと上に行け」と言うようなジェスチャーをした。

 ドライバーはしぶしぶ上に向かい、チケット売り場の手前で僕たちを降ろした。