オプションでオーダーする「スイーツセット(花嫁のれん1号・3号)」は七尾市出身の世界で活躍するパティシエ、辻口博啓氏のケーキと焼き菓子のセット。「和軽食セット(花嫁のれん2号)」と「ほろよいセット(花嫁のれん4号)」の料理は加賀で約190年の伝統を誇る老舗料亭「大友楼」が手がけた。まるで婚礼の席のような晴れがましさ。アテンダントさんたちは和倉温泉の老舗旅館、加賀屋でおもてなしの極意を授かった方々だ。老舗旅館が金沢駅まで出迎え、見送りしてくれるような演出だ。
由来となった「花嫁のれん」を学ぼう
「花嫁のれん」をもっと知りたくて、七尾駅の近くにある「花嫁のれん館」に立ち寄った。お話を伺うと、その嫁入りはもっと厳粛な儀式だった。花嫁が嫁ぎ先の家の敷居をまたいだ直後、花嫁持参の実家の水と嫁ぎ先の家の水を椀に注ぎ、合わせた水を飲む。そして椀を落として粉々に割る。これは後戻りできないという意味があるという。花嫁はそのまま嫁ぎ先に上がり、仏間へ進む。花嫁のれんをくぐり、仏壇に向かい先祖に挨拶をする。結婚が「家に入る」という意味を持つ時代の風習だ。
花嫁のれんは嫁入り道具のひとつ。実家の家紋が入るため、娘の結婚式に使うといった使い回しはできない。高価な仕立ての花嫁のれんを一度きり。そこに家柄を重んじる婚礼の文化を感じさせる。「花嫁のれん館」には、時代とともに変わりゆくデザインの花嫁のれんが展示されている。現代に近づくにつれて絵柄が変わり、松や蔓の縁起物から、夫婦円満のおしどりへ。これは結婚が「家の結び」から「夫婦の結び」に変わったという象徴かもしれない。そのなかに「花婿のれん」もあった。家の存続のために婿を迎える家もあったからだ。男性らしく、青色を使った清々しい絵柄だった。
花嫁のれんは婚礼以外で披露されず、多くは箪笥にしまわれたままとなる。しかし、能登には祭の日に花嫁のれんを飾り、おもてなしする習慣もあった。そこに注目した雑誌編集者、佐々木和子氏の発案で、2004年春から七尾市一本杉通りで「花嫁のれん展」が始まった。旧家、名家から出品を受けて規模が拡大し、花嫁のれんの文化は少しずつ知名度を上げていく。