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博多と釜山を結ぶ国際船 「JRの船乗り」を悩ます対馬海峡の“大敵”とは?

2019/08/05
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飛行機のように“飛んで”走る船

 水中翼船のビートルは、普通の船とはかなり違う特徴を持つ。停船時や低速での航行中は一般的な船と変わらず船体が海面に浮いているが、スピードが上がると船体の下に設けられた翼が揚力を得て、さながら飛行機のように“飛んで”走る。翼のフラップを使い、船体そのものを傾けて方向転換をするなど、「船よりも飛行機に近い」(森船長)乗り物だ。ビートルの場合、通常40ノット(時速約75km)で走っているという。

「ビートル」の船内

「海上を飛んでいる、という感覚ですね。だからスピードも出ますし小回りも利く。一般的な船と比べるとダントツで揺れないので、乗り心地もよくて船酔いもしにくい。出入港の時だけ普通の船のように航行するので、その時だけ『船みたいだったね』というお客さまの声をいただくこともあるくらいです。ただ、一方で航行中はお客さまには座席に座ってシートベルトを締めていただく必要があります。客室サービスも乗務員が歩いて回る飛行機スタイルですね」

 つまり、ビートルは乗客にとっても飛行機のような船、というわけだ。さらに船体を海面から離して“飛んでいる”ため、独特な操船が必要になることも多い。

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自動操縦ではなく船長が手でコントロールすべき部分とは

「当社では波の高さが3mまでなら出航します。船の特徴として船体が海面から2mほど浮いているので、それくらいの高さの波なら影響はあまりないんです。ところが、2mを超える波だと何もしないと高い波が船体にぶつかって大きく揺れてしまう。そこで、我々は深度を変えて波を避ける操船をしています。3mの波が来たら、さらに1m船体を持ち上げて波が当たらないように逃して、波が去ったらまた元に戻す。左右の操舵に加えて高さのコントロールもしているんですね。つまり、ビートルの場合は2Dではなくて3Dの操船が求められる、ということです」

 

 ビートルには自動操縦の機能もあり、高さのコントロールももちろん可能。ただ、あくまでも実測値に基づいた制御をするため、波が高くなるとうまくいかないことも増える。そこで、たいていは船長や航海士が自らの手でコントロールしているのだという。針路の指示も同様で、コンピューター通り真北に進んでいても波や風で針路がずれることがあり、そうした調整も船長たちの仕事なのだ。