対馬海峡に潜むビートルの“大敵”

 飛行機の場合、離発着時が最も事故のリスクが高いと言われるが、それは船でも同じ。20年以上のキャリアを持つ森船長でも、出入港時は緊張するそうだ。ならば出入港以外の時間帯は比較的安心できるのか……と思いきや、対馬海峡にはビートルの“大敵”が潜んでいるという。それは、“クジラ”だ。

「ビートルが走る海域にいるのはだいたいミンククジラなんですが、これとぶつかってしまうことがまれにあるんです。ミンクはクジラの中では小さい方ですが、それでも大きいと体長が8mくらいあります。ビートルの船体の横幅が9.14mですから、同じくらいの大きさのクジラがバーンと当たることになる。そうすると衝撃も大きいし、水中翼が脱落したり、船体が損傷したりして、航行できなくなることもありえます」

 

 そうなっては、乗客にとってはせっかくの旅が台無しになるばかりか、怪我をする可能性もある。そうした事態を防ぐため、ビートルでは万全の対策を取っている。過去にクジラを発見した海域では速度を40ノットから35ノットに落としたり、見張りを強化している。さらに、水中翼にスピーカーを取り付けてクジラが反応する周波数の音を出す(1km先まで届くとか)などの対策もしているという。これはビートルがクジラを避けるためというより、クジラの方から避けてもらうためだ。

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「見張りでクジラを発見したらまあたいていはなんとか避けられるんです。でも、見えていない時がやっかいで。クジラって、呼吸するために時々海面に出てくるじゃないですか。そのタイミングで出会い頭にぶつかるケースは防ぎようがない。そこで、音を出してあらかじめここに船がいるよ、とクジラに教えてあげる。クジラとの衝突は大きな船ならば気にすることはないんでしょうが、我々のビートルのような小さな船ではクリティカルなこともありますから」

長さ3倍以上、新型ビートルへの期待

2020年に就航予定の「QUEEN BEETLE」。JR九州高速船提供

 こうした点も含め、森船長は来年就航予定の新型高速客船「QUEEN BEETLE」には大きな期待を寄せているという。QUEEN BEETLEは現在の水中翼船とは異なる三胴船で、船体の長さは約83m。現在のビートルが27m強なので、実に3倍以上の大きさになり安定性も増すため、クジラとの衝突も気にかけなくて済む。定員も191席から502席へと大幅に増え、今まで必要だったシートベルトも不要に。客席のデザインはJR九州で「ななつ星 in 九州」をはじめ、さまざまなデザインを手がけてきた水戸岡鋭治氏が担当する。まさにまったく新しい船、なのだ。