言うまでもないことだが、JR各社は国鉄の流れをくむ鉄道会社である。だから、事業が多角化された今でも中心にあるのは鉄道事業。全国各地に鉄道網を張って地域輸送から都市間輸送までを担っている。ただ、彼らが担う公共輸送事業は何も鉄道に限ったことではない。たとえば、これまた国鉄バスの系譜につらなるJRバスも各社走らせている。そしてもうひとつ、航路がある。

JRに2つだけ残る「航路」とは?

 JR、国鉄系の航路というと、青函連絡船を思い浮かべる人も多いかもしれない。青函トンネルなき時代、津軽海峡を越えて本州と北海道を結んでいた航路だ。同様のものに、瀬戸大橋開通前に本州と四国を結んでいた宇高連絡船というものもあった。これらはみなとうの昔に姿を消してしまった過去の遺物である。ところが、今でもJR各社の事業を見渡してみると、航路が2つだけ存在しているのだ。ひとつが、JR西日本系列の宮島フェリー。これは国鉄時代から続く歴史ある航路だ。そしてもうひとつが、博多と釜山を結んでいるJR九州系列の国際航路である。

博多~釜山間を結ぶ高速船「ビートル」

 こちらは国鉄時代からのものではなくJRが発足してから就航した路線で、1991年に博多~釜山間で運航を開始している。当初はJR九州直営だったが、2005年に子会社のJR九州高速船に事業が移管されて今に至る。水中翼船・ジェットフォイルを用いた高速船「ビートル」を、1日に2~3往復運航し、博多~釜山間を約3時間5分で結ぶ。途中に対馬の比田勝港に立ち寄って、国内線と国際線の混乗を行なっている便もある(混乗は日本初の事例)。2020年7月には新型高速船「QUEEN BEETLE」の就航も決まっているなど、インバウンド全盛の今、大きく注目を集めている航路のひとつだ。今回は、その「ビートル」の運航について、JR九州高速船の森裕一朗首席船長に話を聞くことにした。まずは、ビートルとはそもそもどのような船なのか。

ADVERTISEMENT

森裕一朗首席船長

「航海中は基本的に船長・一等航海士・機関長・一等機関士の4名がコックピットで操船を担い、そのほかに3~4名の客室乗務員という体制ですね。操船は交代で行い、船長の私は出入港時や危険の多い海域を担当。その他の時間帯は一等航海士に任せています」