当事者意識なき文在寅政権
文政権の課題として、前政権の否定が最優先になっているため、「我々はこういう国を創っていく」というポジティブな政策がなかなか出てこないという点があります。
それこそ、朴槿恵政権の慰安婦合意についても、事実上反故にしておきながら、再交渉は求めない。「徴用工」判決についても、司法の判断は尊重せざるを得ないとは言うけれど、韓国政府の立場も表明しない。
少なくとも、先述の2005年に政府が表明した立場と違うことははっきりしているのに、対外的に韓国を代表するはずの政府、何より大統領が、この問題を整理して何らかの形を示すこともない。「韓国を代表して、この国の立場を決めるのは私である」という認識が、文大統領からは伝わってこないのです。
朴槿恵前大統領には、曲がりなりにも当事者意識がありました。「徴用工」訴訟の進行を遅らせようと、司法に手を突っ込んだところで潰れたとの見方もあるほどです。
結局、文大統領には当事者意識といったものが欠けていると言わざるを得ません。
そして、文大統領は「革命家」だと言いましたが、彼の革命家としての物語の道筋と、国際社会で通用するロジックは明らかに乖離しています。彼自身がそれに気付き軌道修正するのか、このまま「積弊清算」をはじめとする「革命」路線を続けるのか、文大統領とともに大韓民国はその岐路に立たされています。
日本政府は、輸出管理体制の見直しや「徴用工」問題において原理原則を貫き、ロジックとエビデンスを示すべきです。それに加えて、オバマ前大統領が広島を訪問し被爆者を抱擁したシーンのようなグッとくる「一枚絵」になるエピソードを演出し、国際社会の「心と精神を勝ち取る」ことができるかどうかも鍵です。
浅羽祐樹(あさば・ゆうき) 1976年大阪府生まれ。同志社大学グローバル地域文化学部教授。北韓大学院大学招聘教授。著書(共著)に『知りたくなる韓国』『戦後日韓関係史』など。ツイッターアカウントは@YukiAsaba