「東京タ」行き貨物列車の大半が通る重要拠点
東京方面から横浜方面に向かう横須賀線は、品川駅を出ると、まっすぐ南下する東海道本線と分かれて、東海道新幹線に寄り添って走る。多摩川を渡って武蔵小杉で再び南に向きを変えると、新川崎駅を経て東海道本線と再会、合流して横浜に向かう――。
この、品川と鶴見の間の横須賀線が走る区間を、正式には「品鶴線」と呼ぶ。いまでこそ横須賀線や湘南新宿ラインが走っているが、1980年に東海道本線と横須賀線が分離運転を始めるまでは、旅客列車が走らない貨物専用線だったのだ。
新鶴見信号場は、横須賀線の新川崎駅に隣接している。「新鶴見」と「新川崎」がほぼ同じ場所にあるのでややこしいが、どちらも住所は「川崎市幸区鹿島田」だ。
品鶴線の貨物駅として設置された新鶴見信号場は、全国各地から「東京タ」に向けてやって来る貨物列車の大半が通る重要拠点。
我々が乗る第4072列車は、その日の早暁5時36分に宇都宮貨物ターミナル駅を出発し東北本線を南下。大宮操車場を出ると武蔵野線に入り、新座貨物ターミナル駅(埼玉県新座市)、梶ヶ谷貨物ターミナル駅(川崎市宮前区)を経て、7時57分に新鶴見に着いたコンテナ専用列車だ。ここから終点「東京タ」までの最終区間は22.1キロ。
梯子段を上っての「垂直乗車」には機関車の重さと安定が感じられる
9時20分。垣井副区長に率いられて着発二番線に停車している列車に向かう。26両の貨車を従えて、昭和の名機「EF65」の2075号機が出迎えてくれる。
当然ながら旅客駅のようなプラットホームはない。線路の敷かれた砂利の上から、梯子段を上って乗り込む。この、地面からの「垂直乗車」は、慣れぬ者には一苦労なのだが、同時に機関車の重さと安定が感じられる。「男の乗り物」という雰囲気が味わえて嫌いではない。
すでに運転士が乗り込んでいた。彼は午前2時52分に静岡貨物駅を出る第2058列車に乗務し、5時00分の新鶴見到着までノンストップで運転。しばしの休憩ののちに第4072列車に乗務する、というスケジュールだ。
ちなみにこの運転士が静岡から乗ってきた2058列車は、大阪の吹田貨物ターミナル駅から宮城県多賀城市の陸前山王駅まで行くコンテナ専用列車。彼はその真ん中あたりのひと区間を担当し、今度は別の列車の最終区間を運転する、という仕組みだ。日本中を走り回る貨物列車は、多くの乗務員が区間ごとを細かくリレー乗務することで成り立っているのだ。
「ブレーキ、ゆるめーゆるめー!」点検作業後、いよいよ出発
9時25分。運転席では発車前の確認作業が始まった。垣井副区長がこれから乗務する区間の確認事項を伝え、最後に一言付け加えた。
「なお本日はお客様の添乗がありますが、普段通りの安全運転を心がけて下さい」
普段は一人で乗務する運転席に、今日は我々取材班の他に、垣井副区長と広報室の2名の総勢6名が乗り込んでいるため、立錐の余地もない。運転士には迷惑だろう。本当に申し訳ない。
9時32分。運転席に無線の会話が流れる。場内にいる別の電気機関車が、新鶴見信号場の指示でブレーキテストをしているらしい。
「ブレーキ、ゆるめーゆるめー!」
「ブレーキ、ゆるめーゆるめー!」
「テスト終了。お疲れ様でした!」
といったやりとりなのだが、いったいどんなテストなのだろう。ブレーキが緩むかどうかのテストのようにも聞こえるが、そんなテストがあるのかどうかもわからない。
わが機関車は出発間近で、運転士と副区長は各種点検作業に余念がない。
心地よい緊張感の中、いよいよ出発時刻が訪れた。
前方の信号機が「青」を灯した。