およそ800メートルも続く貨物専用線“短絡線”に心躍る
新鶴見を出て3分ほど走ると、割畑信号場という分岐点に差しかかる。ここからが今回の添乗記前半最大のヤマ場だ。
このまままっすぐ進むと、東海道本線に合流して小田原方面に向かってしまう。「東京タ」へ向かうこの列車は、割畑で左に分岐して、東側を走っている南武線に合流する道を取る。その間約800メートルは、記者が愛してやまない“短絡線”という貨物専用線だ。川崎と立川を結ぶ通勤路線・南武線の支線扱いのこの短絡線には、「尻手短絡線」という名称が与えられている。
昨年、やはり添乗取材で常磐線の土浦駅から隅田川駅まで貨物列車に乗った時も短絡線を走ったが、それは添乗区間の最後、南千住駅の手前から隅田川駅構内までの400メートルほどだった。
ところが今回は、出発していきなりの短絡線だ。しかも南千住の倍の長さだ。心が躍る。
割畑の分岐点を過ぎて左にカーブする。横須賀線の高架をくぐって東に向きを変えると、展望が一変する。いかにも短絡線然とした単線だ。道路に置き換えると、何車線もある大通りから、車一台がようやく通れる路地に入り込んだような変化だ。
楽しかった短絡線の旅は2分ほどで終わり、南武線と合流
レールの間に草が生えて、本線と比べて明らかに格下感のあるくねくねとした短絡線を走るのは楽しい。民家の軒先や裏庭のようなところを、大きな電気機関車が長いコンテナ車を引いて走っている――と思うと、なお楽しい。
そもそも旅客列車が通らない線路を走る列車に乗っていると、してはいけないことをしているような、背徳感に似た意識に襲われる。いつまでもこの線路を走っていたいと思うが、ものの2分ほどで左側から南武線が近づいてきて合流。ふたたび「大通り」に出た。楽しかった短絡線の旅はあっさり終わった。
合流地点から目と鼻の先の尻手駅では、南武線の下り線のさらに外側の線路を通過。川崎駅に向かってカーブしていく南武線を左に見て、わが列車は直進。浜川崎駅に向かう「南武線浜川崎支線」に入った。つまりこの列車は南武線の支線ばかりを選って走っているわけだ。
東海道本線と京浜東北線を直角にまたぐと、右から「東海道貨物線」が合流してくる。ここから先「東京タ」まで、この列車が走る線路の戸籍も「東海道貨物線」となる。
京浜急行との接続駅である八丁畷駅を9時47分に定刻通過。ここにもこちらにカメラを向ける青年がいた。
「いよいよ来たか……」貨物列車は地下へ
9時53分。南武支線の終点、浜川崎駅を通過。駅の手前で左にカーブを切り、旅客ホームの裏側をかすめるようにして、それまで南東に向けていた進路を北東に変える。ここから終点の「東京タ」までは、貨物列車に乗らなければ通ることのできない線路だ。
浜川崎駅から川崎貨物駅までの区間は、夜になると「工場夜景」のメッカとなる臨海工業地帯。昼間は殺風景な工場群だが、そこを貨物列車が走るとよく似合う。
高速道路と並走したり、運河を渡ったりして9時58分、川崎貨物駅を通過。
この駅は、付近一帯の工場群へと延びる多くの貨物専用線を束ねる拠点。燃料系の貨物も多く扱うため、コンテナ専用駅とはまた違った風情がある。構内に進入すると、左右に線路が無数に枝分かれしていく。どんどん眺望が開けていく中、わが列車の前方に、側溝のようなくぼみが見えてきた。地下へと潜っていく2本のレールと、その先にはトンネルが口を開けている。
「いよいよ来たか……」