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コンテナホームへの移動にも添乗させてもらった

 これで第4072列車の添乗は終わりだが、同乗した広報室の中村さんから驚きの提案が示された。

「このあと貨車をコンテナホームに入れて切り離し、機関車を留置線に移動させるのですが、そこまで乗られますか?」

 昨年秋、記者は誰の紹介もなく、JR貨物の広報室に電話をかけた。取材の意図を告げ、企画書を郵送し、打合せに行った。

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「貨物駅を見学したい」「貨物列車に乗りたい」「短絡線を走りたい」

 そんな、誰に話しても理解してもらえない訴えに、真剣に耳を傾け、要望に応え続けてくれたJR貨物広報室は、もはや記者の思いを見抜き、先回りして提案してくれるまでに心が通じ合っている。この有難い提案を断る理由などない。運転士には迷惑をかけるが、最後まで見届けさせてもらうことにする。

運転士はトランシーバーを手にする

 着発二番線で地上職員からトランシーバーのような無線機を受け取った運転士は、列車の最後部近くに待機する別の職員との交信テストを始めた。これからこの列車は、後ろ向きに走って、26両の貨車をコンテナホームに押し込むのだ。

 運転席から列車の後方は見えない。頼りは無線の指示だけだ。

「40……30……20……10……5メーター…………停止!」

 10時11分。「ピッ」と短く警笛を鳴らすと、列車はゆっくりと後進を始めた。運転士は窓から顔を出して後方を凝視する。今日は晴天だが、雨や雪の日は大変だろう。

貨物列車の「バック」は、運転士が窓から後方を確認しながら行う

 ゆっくり走っているとはいえ、何度もポイントを渡り、そのたびに右に左にとカーブする。たかだか1067ミリメートルの幅の線路の上を、重くて長い貨車を後ろから押して、よく脱線しないものだと感心する。

 速度を落としながら運転士と副区長が喚呼する。

「40……30……20……10……5メーター…………停止!」

 10時14分、コンテナ21番線に停止した。

 宇都宮から引っ張ってきた貨車を切り離して身軽になった「EF65」型電気機関車2075号機は、10時17分、前進を始めた。不思議なもので、運転席にいるだけで軽くなった感覚がわかる。

 先ほど本線から到着した「着発二番線」に戻ると、一旦停止して地上職員に無線機を返却。すぐに発車すると、さらに奥へと進んでいく。

 広かったターミナルも、先端に近付くにつれて線路が集約されて先細りになっていく。最大で22本も並んでいた線路が3~4本まで減ってきた。

 線路を覆うように生える草の伸び方で、ターミナルの終端部が近いことがわかる。

 10時23分、最果て感の漂う「機待三番線」に停止。

東京貨物ターミナルの最北端に位置する機待三番線

「東京タ」の構内をほぼ2往復、添乗体験が終わった

 ここからもう一度逆向きに走って、さっき貨車を切り離したコンテナホームに近い「機留線」まで移動する。

 先ほどは運転士が窓から顔を出して無線を頼りに後進運転したが、いまは後ろに貨車がいないのでその必要はない。反対側の運転台に移動する。

 電気機関車の、前にも後ろにも同じように進める構造の利便性が、こんな時によくわかる。車も飛行機も、船も馬も、前進するのは簡単だが、真後ろに進む時には難儀する。蒸気機関車も同様で、昔は終着駅に着くとターンテーブルという円盤に載せて、向きを反転させていた。

 その点、電気機関車や電車は、乗務員が移動すれば、それまで「後ろ」だったものが「前」になる。鉄道のように、線路の上でしか行き来できない乗り物にとって、これはきわめて大きな強みだ。

機関車から降車するときも最後まで気が抜けない

 晴れて後ろ前になったわが機関車は、いよいよ最後のひと走りを始めた。

 再び横に広がっていく膨大な数の線路の中で、最も西側に敷かれた線路を通って、機関車を留置する機留線に向かう。短い時間に広い「東京タ」の構内を、ほぼ2往復したことになる。

 10時31分、「機留三番線」に到着。これで添乗体験は本当に終わってしまった。

 去りがたい気持ちをおさえて機関車を降りると、すぐ横には、かつてブルートレインを牽いていた「EF66」の最後の現役車輛、27号機が、静かに休んでいた。

EF66最後の現役車輌。JR貨物の担当者は、「すごく問い合わせが多いんですよ」と語る

 人生で得られる幸運の、かなりの量をこの1時間で消費したような気がした。

写真=山元茂樹/文藝春秋

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