「フタセンナナジュウヨン列車」と読む
わが列車には「第2074」という列車番号が与えられている。「ニセンナナジュウヨン列車」ではなく「フタセンナナジュウヨン列車」と読むところがかっこいい。
藤代を出た2074列車は、徐々に速度を上げて取手をめざす。画面の中はあいにくの雨模様だ。後方へと移り行く風景と、スピーカーから流れる走行音が一致している。本当に運転している気分に浸れる。訓練とはいえ、愉快だ。
「ATS PFに切り替わりました」
という女性のアナウンスが流れる。よくはわからないが、何らかの事情があって何かの装置が切り替わったのだろう。
速度制限一杯の35キロまで上げたところで、再び下り勾配にさしかかる。教官の指示に従い「惰行」に切り替える。なるほど下り坂だから何もしなくても速度が落ちない。省エネ走法だ。「うまくできたものだ」と感心していると、この区間のハイライト、交流から直流への切替地点が近づいてきた。記者の後ろに立つ服部教官が忙しくなる。
「交直切り替え!」
「直ッ!」
「直位置! ヨシッ!」
「第三閉そく、進行ッ!」
「ヨシッ!」
「VCB開放! ヨシッ!」
「ヨシッ!」
運転士役の記者は何もしていないのだが、服部教官の適切なるサポートにより、色々なことがつつがなく進んでいく。
ここに座った以上は定時運行遂行の義務がある
いよいよ切替区間に入った。服部教官の指差喚呼が続く。
「セクショーン!」
「VCB投入!」
「ホキ消灯ヨシ!」
「架線電圧1500!」
「もとい、1600!」
「ヨシッ!」
切替区間を無事通過し、やれやれと安堵に浸ろうとすると、服部教官から指示が飛ぶ。スピードを上げないと遅れが出るというのだ。お飾りの運転士とはいえ、ここに座った以上は定時運行遂行の義務がある。ノッチを「14」まで上げる。
いい感じに速度も出てきたその時、服部教官が叫んだ。
「何かいるぞ!」
見ると緩やかなカーブの先200メートルほどの線路上に、1頭のシカが佇んでいる。
野生動物がエサを求めて人里に出没するという話は時折耳にするが、東京のベッドタウンとして栄える取手の市街地に野生のシカが出るとは驚いた。急いでブレーキをかけるが、26両編成の貨物列車は簡単には停まれない。見る間に近づくシカは逃げようともせず、鈍い衝撃音を残して画面から消えた。
「藤代取手間41キロ500付近、シカと衝突し停車中です。どうぞ」
緊急停止した機関車の運転席に、けたたましい警報音が鳴り響く。服部教官の忙しさはピークに達した。色々な機器を指さしては「ヨシッ!」と喚呼を繰り返したのち、無線で輸送指令に連絡をとる。
「輸送指令輸送指令、こちらは2074列車運転士です。どうぞ」
「こちら輸送指令。2074列車運転士、内容をどうぞ」
「藤代取手間41キロ500付近、シカと衝突し停車中です。どうぞ」
これを聞いた輸送指令は、周囲の列車に事故の発生を伝えるので、貴殿は列車の安全確認をせよという。指示に従い教官は機関車を降りて脱線や車両損傷の確認に走る。本来そうしたことは下っ端である記者がすべきなのだが、何もできずにあたふたする。