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 医療の進歩に伴い、各診療科の医師たちは、高度に専門分化された診療を担当する。当然のことだが、専門分野に特化した医師は、どうしても専門外に弱くなる。こうした状況で、夜間や休日に当直で救急当番が回ってくれば、不安になって患者を断るのも無理はないだろう。

 一関市のケースでは、同市の小児科医不足が議論となった。しかし、本質的には救急医が充足していれば、こうした問題は解決すると筆者は考える。とくに医師不足になりやすい地方こそ、科を問わずに何でも診られる救急医がいるとよいだろう。

 救急医がいないため、救急医が足りないために、救急患者を断るケースを責めることはできない。救急医ではない医師が、勇気をもって手を挙げて事故が起きてしまう場合も同様だ。しかし、その狭間で亡くなってしまう患者を思うと胸が痛い。

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働き方改革で生まれる救急車難民

 ここまで見てきたように、各地の病院で救急医療の人手不足から救急部門の閉鎖や、応需率の低下が相次げば、今後は路上から出発できずにいる「救急車難民」が出る可能性がある。

 東京医科歯科大学(東京都)救命救急センター長の大友康裕医師は「患者さんは、現状の医療を受けられなくなりますよ」と指摘する。

「すでに純粋に救急を診る医者の数が減ってきて、受け入れ能力が落ちている病院があります。それでも現在は「患者を助けたい」という情熱のある医師が救急医療を支えている側面がありますが、政府が進める「働き方改革」の影響で、近い将来それも難しくなるでしょう」

 国が推し進める働き方改革は、長時間労働が常態化している医師も例外ではない。働き方改革関連法による残業時間の罰則付き上限規制は、2019年4月から順次始まっている。医師は仕事の特殊性から5年間の猶予が認められているものの、2024年度から適用される予定だ。

 通常の医療機関の勤務医は、一般労働者の過労死レベルと同じ年960時間。しかし驚くべきことに、救急などの地域医療を担う病院の勤務医は、2035年度までの特例で年1,860時間とした。これでは「医師だけは過労死レベルを超えてもいい」というメッセージに近いのではないか。

 医師の過労死は珍しくない。2016年には、新潟市民病院の30代女性研修医が自殺した。救急患者の呼び出し勤務が激増している状況だったという。新潟労働基準監督署は過労が原因だったとして労災を認定し、これを契機に、新潟市は医師の勤務時間短縮を余儀なくされた。

「現場の医師からは、以前より20〜30%、救急患者を受け入れられなくなったと聞いています。そうなると近隣の病院が対応せざるを得ない。すべての病院が働き方改革に合わせて医師の勤務時間を減らせば、救急車難民が出るでしょう」

 現状のままでは現場は疲弊し、医療の安全を損なうことにもなりかねない。かといって医師の勤務時間を減らせば、人手が足りなくなり、救急車の行き先が少なくなる。そして、行き先のない救急車は、次の患者のもとに向かえなくなる。あなたが「次の患者」だったなら、救急車が来ないということだ。