国際政治においては「情報戦争には同盟なし」
北村氏は、歴代トップの中でも、極めてキャラが立つ情報官故か、内閣支持率アップを後押ししてきた官邸主導の「安倍外交」が、ロシア、米国、中国と、その限界を次々と露呈させる中、昨年あろうことか情報官自らが、「禁じ手」である外交交渉に手を染めていたことが露見する。しかもその交渉相手が、拉致事件をはじめ、日本の公安・外事警察が対峙してきた対日工作員を送り込んできた朝鮮労働党幹部だったことは、内調の事実上の実働部隊として屋台骨を支えている彼らからすれば、明らかに背信行為であった。
北村氏からすれば、米韓が情報機関による秘密裡の折衝によって首脳会談実現に漕ぎつけたのに倣って、米中央情報局(CIA)が「カウンターパート(交渉相手)」だった外事情報部長時代の人脈を駆使したと見られているが、事前通告がなかったことに不快感を示した、その米国側に北村氏らの動きを情報リークされたことは皮肉以外の何ものでもない。国際政治では、「国益」主義の立場に立てば、「情報戦争には同盟なし」なのである。
目に余る“ある室長”の行動
内調草創期からその中核を担った志垣民郎氏は、最近の回顧録で、「例えば、ある室長は副長官に昇格しようとしてやった手口は相当なものであった。竹下登を初めてとして、あらゆる手ずるに声を掛け、副長官になろうとした。私は官僚というものは、政治家とは一歩離れて己を持するものであると思っていたから、このような室長の行動は目に余るものがあった。だが、彼は遂に副長官になるのである。そしてしかるべく評価を受け、出世の途を歩んだのである。私は、世の中とはこういうものだと感じたのである」(『内調調査室秘録』、文春新書)
と、かの“権力亡者”たちを唾棄し、戦後一貫して歴代保守内閣を裏側から支えながら、「学徒出陣」世代として、「戦争のない社会」を使命とする「国士型官僚」の矜持を見せている。