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デスクワーク中心の「行政マン」と変わらない

 内調の現体制は、情報官をトップに、総務、国内、国際、経済の4セクションと、情報集約、衛星情報の2センターが配置され、メンバーはプロパー採用組をはじめ、警察庁、防衛省の出向組や、公安調査庁からの転籍組らが主力で、これに外務、財務、経産等の各省庁からの“寄り合い所帯”の感が強く、杉田和博内閣官房副長官(66年)は、情報官時代に、「CIAの1万6千人組織と、公安調査庁組も含めて2百人の内調組織の違いは歴然としています」(「選択」2001年1月号)と自嘲気味に語っており、人材面でも何らかのオペレーション(作戦)経験のある警察、公調組らは組織としての出番は全くなく、プロパー組に至っては、「情報マン」教育どころか、デスクワーク中心の他省庁の「行政マン」と何ら変わるところがない。

内閣官房副長官・杉田和博氏 ©文藝春秋

 このため、日常業務も公開情報の「オシント」と言えば、新聞、雑誌等のコピー取りから、最近ではネットからのダウンロードまで、また「ヒューミント」となると、マスコミとの飲食が関の山かもしれない。そしてここから作られる「内調情報」を今のマスコミは“後生大事”にするが、元の情報発信源はマスコミ自身かもしれないのである。しかもこの“虚報”が、当局とマスコミの間でキャッチボールをしているうちに「情報」として認知され、結果的に「内調モンスター」という“虚像”化に一役買うことになる。

 キャリア官僚の内調への出向組は、2年程度で親元官庁に戻るため、在籍中に一旗揚げようと、“情報”をねつ造して一大スキャンダルをでっち上げようという、不心得ものは一人や二人ではなかったように思う。それを必死で押しとどめようとするノンキャリアたちは、痛々しかった。

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ヒトも組織も不十分な「内調」が存在できる理由

 こうした内調の数少ない救いは、電波・通信の「シギント」である。現在この任務を担っているのは、防衛省情報本部だが、その前身である陸上幕僚監部調査部第2課別室(通称調別)は、実質的に内調の下部組織で、今もそのトップである電波部長は、警察官僚の指定席である。その威力は1983年のソ連空軍による大韓航空機撃墜事件で遺憾なく発揮されたが、戦後政治にあっては、自衛隊という軍事組織に、いわば情報組織が楔を打ち込んだ、「シビリアンコントロール」の意味合いがあることを忘れてはいけない。

防衛庁 ©文藝春秋

 そしてヒトも組織も不十分ながらも、内調が存在足りえているのは、やはり内調活動費も含まれている、内閣官房報償費(官房機密費)という、潤沢なカネがあるからであろう。委託研究は、その一例である。