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米ソ冷戦がもたらした奇妙な「平和の配当」

 米国の占領下から独立国家の要諦として、安全保障の根幹をなす「国家の情報」を首相官邸(内閣官房)に一元化する、内調の前身となるインテリジェンス機関が、吉田茂内閣時に構想されたことは先に触れたが、この構想を巡っては、警察官僚に与する旧内務官僚と外務省の主導権争いが大きく影を落とし、呆気なく頓挫。しかもその後の米ソ対立という冷戦の恐怖が作り出した奇妙な「平和の配当」が、インテリジェンス機能(情報の収集・分析・活用)の漂流と「政策の立案・遂行」の為の委託研究へのシフトをもたらすことになった。

外務省 ©文藝春秋

 先の志垣氏の“ミッション”も、内調の学者人脈の構築から、1960年代の核政策研究をはじめとする、中国問題、沖縄、北方領土等々の多岐にわたる委託研究の充実にあったことが先著からよくわかる。

 筆者もその延長線上で、小泉内閣時に、中曽根康弘内閣で内閣安全保障室長を務めた佐々淳行(54年、警察庁)、内政審議室長の的場順三(57年、旧大蔵省)両氏をリーダ格とする、安全保障を中心とするタスクフォースに参画した経験がある。メンバーは、官界から両氏のほかに旧通産、法務・検察、学界からは朝鮮問題が専門の私大教授、マスコミ界からは元NHK解説委員、元大手全国紙記者に、フリーランスの筆者。そして自衛隊制服組OBの多さに何よりも驚いた記憶がある。

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 月1回の定例会が開催され、筆者も「新脅威時代と情報組織の役割」をテーマにチューターを務めた。また内調全体の勉強会にも講師として参加。その際大手全国紙政治部の編集委員クラスらが講演しているのを散見したり、その内容を側聞したが、メディア懐柔策は勿論、広くは世論対策の意味合いもあるように見えた。

 更にこれとは別に、内調からの要望で、内外の中期的な政治情勢の分析等から小泉訪朝と直近の課題まで、30本近いレポートをまとめた。

 中でもイラク開戦後、自衛隊の海外派遣が緊喫の課題となり、派遣に反対する自衛官の妻たちが首相官邸に抗議デモに押し掛けるという情報に内調も緊張した。海外のことならいざ知らず、国内のことなら、公安警察に聞けば事足りると思っていたが、なぜか筆者にお鉢が回ってきた。ペロポネソス戦争が長引く中、戦争を止めさせようと、アクロポリスを占拠する女性たちを描いた、アリストパネスのギリシャ喜劇『女の平和』でもあるまいしと、笑い話にもならぬエピソードは数知れず。

イラクへ陸自が派遣された ©共同通信社