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「振り飛車って冬の時代なの?」20代イケメン将棋棋士2人の答えとは

「振り飛車って冬の時代なの?」20代イケメン将棋棋士2人の答えとは

黒沢怜生五段×都成竜馬五段 20代若手強豪対談#3

2019/09/13
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――いまの後手振り飛車の主流は?

黒沢 ソフトを使う人は角交換振り飛車を避けていると思うので、ノーマルな振り飛車(角道を止めるタイプ)ですかね。

都成 でも、めちゃくちゃ流行っている感じはない。後手振り飛車が生き残っていくには、作戦を散らすのが大事な気がします。ゴキゲン中飛車は隠し玉で使うとか。ゴキゲン中飛車が主軸の人は、戸辺(誠七段)さんや里見(香奈女流六冠)さんですけど、相当に深い研究をしないと大変ですよね。

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――ノーマルな振り飛車が注目されているのは、居飛車急戦の定跡はあっても、いまはほとんど研究されていないからですか?

黒沢 そういうのもあります。

都成 ノーマルな振り飛車に対しては穴熊などの持久戦が主流なので、それなら出たとこ勝負になりやすい。ノーマル振り飛車が急戦に潰される未来は想像できないです。

 

振り飛車党で注目の棋士は誰?

――振り飛車党で独創的なタイプは、菅井七段です。

都成 菅井さんは自分なりの独自の研究を持っていますけど、多少は作戦を散らしているイメージです。

――菅井さんみたいに新作戦、新手を生み出すタイプは、ほかにいますか。

都成 いないでしょうね。関西の若手振り飛車党で注目しているのは、西田(拓也四段)さん。何でも指しますし、研究が深くて、振り飛車に命を懸けている。多分、ソフトをうまく取り入れていると思います。

――黒沢五段から見て、注目の振り飛車党は?

黒沢 あえていえば、山本(博志四段)君ですかね。ノーマル三間飛車の流行は、彼の影響だと思います。でもデビューして1年ですし、まだどういうタイプかわからないですね。

 

――変わっている振り飛車党といえば、デビューしたころの永瀬拓矢叡王が浮かびます。駒得重視、受け潰しを狙うタイプでした。

黒沢 私は永瀬さんと練習将棋を結構指していて、影響を受けています。

――ストイックなところも?

黒沢 それは尊敬するだけで……(笑)。彼は居飛車党になって、将棋の質が変わりました。すごく現代的になって、でも永瀬さんらしさも残っていて、形にとらわれない指し方をしてきます。

都成 振り飛車党はソフトを使っていない、大らかな人も多いですよ。もともと、振り飛車はそんなに研究していなくても、ノリで指せるところもあるので。

黒沢 ただ、藤井(猛九段)先生はちょっと違いますよね。大らかじゃなくて、緻密な印象を受けます。

――藤井猛九段タイプの振り飛車党はいますか? ソフトを使わずに、藤井システムなどの新戦法を自分で一から組み立てて、体系化するような。

黒沢 いないんじゃないですか。

都成 これからも出ないかもしれないですね。

◆◆◆

 藤井猛九段は、自ら創案した戦法でタイトルを獲得した誇りを持つ

 昭和後期以降、対振り飛車は急戦や位取りから、玉の堅さを主張する左美濃や穴熊が主流になっていった。1992年、大山康晴十五世名人が竜王戦1組・順位戦A級に在籍したまま69歳で逝去する。振り飛車党の第一人者がいなくなったなか、1997年、藤井は四間飛車の「藤井システム」で当時の谷川浩司竜王を破り、初タイトルの竜王を獲得した。藤井システムは左美濃、居飛車穴熊をシステマチックに撃破する作戦。ひとつの戦法を独自に創り上げる棋士はそういない。

 黒沢五段と都成五段は「振り飛車が苦戦している」と素直に認めた。だが、それは振り飛車が逆襲に転じる、嵐の前の静けさに思える。羽生九段が角道を止める四間飛車を連採しているのも、そこに鉱脈を見つけようとしているからだろう。

「若者には挑戦する資格と義務がある」と芹沢博文九段は説いた。黒沢五段と都成五段が様々な作戦にチャレンジできるのは、力に自信がある証拠である。振り飛車は「不利飛車」ではない――それは盤上で示すしかない。

#1「将棋棋士ってオフの日は何をやってるの?」20代イケメン棋士2人に聞いてみた”へ)

#2「谷川って人から電話だよー」20代イケメン棋士2人が語る“振り飛車でプロになるまで”へ)

 

写真=松本輝一/文藝春秋

黒沢怜生五段(くろさわ・れお)/1992年3月7日生まれ、埼玉県熊谷市出身。高橋道雄九段門下。2014年、四段。2016年、五段。
関東所属の振り飛車党。中終盤に力を発揮する。
2016年、第29竜王戦5組で優勝。2017年、第43期棋王戦で挑戦者決定二番勝負まで進出した。2018年、第44期棋王戦でベスト4入り。

 

都成竜馬五段(となり・りゅうま)/1990年1月17日生まれ、宮崎県宮崎市出身。谷川浩司九段門下。2016年、四段。2018年、五段。棋戦優勝1回。
関西所属のオールラウンダー。2019年4月からNHK「将棋フォーカス」の司会を務める。
2013年、第44期新人王戦で優勝。奨励会員が優勝したのは史上初。2018年、第76期順位戦でC級2組からC級1組に昇級。第31期竜王戦ランキング戦6組で優勝。

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