振り飛車党のタイトルホルダーがいなくなった。2018年度に菅井竜也王位が豊島将之棋聖、久保利明王将が渡辺明棋王にタイトルを奪取されたからで、昔からトップ棋士は居飛車党のほうが圧倒的に多い(肩書はいずれも当時)。 
 振り飛車で棋士になった黒沢怜生五段と都成竜馬五段から見て、振り飛車の未来はどう映るのか。キーワードになったのは「将棋ソフトの研究」。ほとんどの将棋ソフトは振り飛車を評価しておらず、飛車を振っただけで評価値が下がる。また、ソフトで研究を従来より深く掘り下げることができるようになり、進化のスピードは加速するばかりだ。その中でどう勝負するのか、棋士も苦心している。

(全3回の3回目/#1#2より続く)

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ファンに棋譜を見られるプロのプレッシャー

――プロになって黒沢五段は5年、都成五段は3年半たちます。奨励会と戦い方は変わりましたか。

黒沢 序盤で悪くなるときついです。玉の堅さ(玉の回りに金銀を密集させれば、囲いが強固になる。典型例は穴熊)より、陣形の厚み(陣形を立体的に構え、模様を広げる作戦。位を取ってじわじわ押したり、相手を押さえ込む展開が多い)を重視する棋士が多く、古い形と戦うことが増えました。ベテランの先生には、なるべく角道を止めません。急戦とか昔の定跡は分からないので、やられたら困るんですよ。

都成 いろんな年代の棋士と指すと、奨励会では経験したことない展開になり、新鮮です。戦い方は、自分自身が常に変わっているので、プロになって変わったというのはないかもしれません。

都成竜馬五段

――三段リーグのプレッシャーがなくなって、伸び伸びと指せるんじゃないですか?

都成 そうでもないです。最初はあるかなと思ったんですけど、プロはプロで年々、プレッシャーがあります。ファンの方々に棋譜を見られますし。

黒沢 奨励会だと勝てばいい、それだけでした。プロだといい将棋も求められています。

――都成五段から見て、黒沢将棋の特徴を教えてください。

都成 振り飛車党のなかで芸域が広く、対抗形(居飛車対振り飛車のこと)が抜群にうまい。先手中飛車のイメージが強いながら、角交換振り飛車も指しますし、作戦を絞られにくいです。

黒沢怜生五段

――黒沢五段はかなり作戦を散らしていますが、どうやって決めていますか?

黒沢 気分のときもありますけど、だいたい3択ぐらいはあります。基本的に研究会(練習将棋)で1日3局、色々な振り飛車を指しているので。

都成 黒沢さんがうらやましいのは、長所と武器がはっきりしていて、勝ちパターンがあること。手が見える(直感に優れている)終盤派で、見えないところからパンチが飛んできます。三段リーグで戦ったとき、終盤で勝ちだと思っていたのに、気がついたら負けちゃって。感想戦で「耐えていると思いました」といわれました。

黒沢 生意気でした……(笑)。

都成 いやいや、さすがの見切りでした。