うちの会社にも森若さんのような人がいれば。『これは経費で落ちません!』を見て、そう思う視聴者も少なくないだろう。
石鹸メーカーの経理部で働く森若沙名子(多部未華子)の職場での日々を描く“お仕事ドラマ”だが、意外や見どころ一杯で、見るものを飽きさせない。
社員が提出する膨大な領収書や請求書の中に、ときおり森若さんが「んっ?」と違和感を覚えるものが混じっている。不正や隠ぺいの微かな匂いとでもいったらいいか。領収書に記載された数字が、どこか怪しげにユラユラ動いている。
経理という一見、地味な職場で起きている、小さいけれど、それゆえに厄介なサスペンスと向き合い、処理していく“経理の森若さん”の姿が格好よく、さすが多部ちゃんである。
たこ焼代金四百五十円に始まり、ブラウス代六万六千円、さらには一眼レフ・カメラ四十万円まで。どれもにもっともらしい名目がついているが、果たしてこれは経費で落ちるのか?
森若さんはフェアで几帳面な人だ。このタイプが主人公だとドラマは不正を糾弾する色彩のみが濃くなって、退屈、ときには偽善の臭いさえ帯びてくる。
しかし彼女は正義の押し売りをすることなく、怪しげな領収書に隠された当事者たちの心理や背景までを推し量る度量の広さと優しさまでもっている。
だから社内の小悪人たちの不正な数字操作に気づいても、きちんと相手を説得して数字を訂正させれば、それ以上は追いこまない。彼女が好きな言葉は「イーブン」だ。差し引きゼロ。社内に無用の波風たてない彼女らしい言葉だ。
仕事はきちんとこなし、誰ともつるまない。なのにちょっとした表情が愛らしく、同僚たちの気持ちが自然と和んでいく。実はこういう役って難しいんだよ。嘘っぽいというか、類型的といえばいいか。そんな難役を、笑いとシリアスとりまぜて演じられるところが多部未華子の才能だ。
貫禄はないけど人は善い経理部長(吹越満)、ちょっとドジで愛敬のある後輩社員を演じたら、いまや敵なしの伊藤沙莉など、脇役も味のある役者が揃う。
しかし六話で、妥協を許さぬ正義派社員、麻吹美華(江口のりこ)が経理部に配属されて、職場は大型台風が襲来したかのような修羅場に。江口のりこのテンション高過ぎの怪演と、多部ちゃんのクールさの対比に、思わず大笑いした。
さらに社長の愛人とも噂される秘書の有本マリナ(ベッキー)の超絶な腹黒さが全開で、ベッキーってこういう役がドンピシャリはまって、江口vsベッキーの激闘も見逃せない。だけどフェアで調整能力もあり、クールに見えるけど優しく可愛い森若さんがいるから、会社は明日も大丈夫。
INFORMATION
『これは経費で落ちません!』
NHK総合 金 22:00~
https://www.nhk.or.jp/drama/drama10/keihi/