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どんな世界にも光のあたらない部分がある――将棋大会運営者から見た奨励会員

どんな世界にも光のあたらない部分がある――将棋大会運営者から見た奨励会員

第1期“書く将棋”新人王戦 入選作品

2019/09/29

genre : 社会, 教育

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奨励会は厳しく、多くは退会

 奨励会に入った子たちのことは気になり、例会が終わると必ず勝敗表をチェックしている。奨励会員は日本将棋連盟の規定で大会には出られない。大会に出ない子どもには、運営者である私が会う機会はなく、かわいい小学生中学生だった彼らがどんなふうに成長したのか、なかなか分からない。だから、知っている奨励会員が記録係を務める対局がネット中継されると、かじりついて見てしまう。

 よく言われることだが、奨励会は厳しい。12年大会運営をして、20人の奨励会入りした少年を見てきたけれど、プロになった子はまだ1人もいない。10年奨励会員を続けている例もあるが、半数が年齢制限を待たずに退会している。藤井聡太七段は小学4年生で奨励会入りし、中学2年でプロになったけれど、そんな短期間で若くしてプロになるのが、どれほど途方もないことなのかよく分かる。

 中学生や高校生で奨励会を退会し、また大会に復帰する少年もいる。そんな子に会えるのは嬉しい。奨励会で鍛えた実力を発揮し、全国大会で優勝する子もいた。勉強も得意な子もいて、有名大学に入って将棋部で活躍する子もいる。一方、学業はかなぐり棄てるように将棋に集中して頑張ったのに、プロを断念する子もいる。全国大会で準優勝したりして、県外にもその名をとどろかせた天才少年が、奨励会入りし努力を重ねてもプロになれない現実を見せられると、ため息しかでない。

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光の当たらない世界にも

 奨励会を退会後、将棋大会に復帰してこなかった子たちのことは、気になっている。彼らはどうしているだろうか。将棋なんかやらなければ良かったと後悔してはいないだろうか。毎日毎日将棋の勉強をして努力したことは、たとえプロになれなくても消えたりしない。彼らの人生に何らかの形でそれが生きてくれればいいなといつも思う。

 華やかなプロの世界に比べ、奨励会員も、奨励会を退会した子たちも、光の当たらないところにいるモグラみたいな存在なのかもしれない。厳しい競争があり、それを勝ち抜いた者だけがプロになれるからこそ、強いプロが生まれ、魅力のあるプロの世界ができるのだろう。私のような大会運営者にも光が当たることはないので、モグラのような立場の彼らを余計応援したくなるのだと思う。

 どんな世界にも光のあたる部分と、それよりはるかに多い光のあたらない部分がある。光の当たらない世界にもちょっと興味を持ってもらえると嬉しく思う。

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