以前小欄で「過呼吸」についての記事を書いた。精神的なストレスが呼び水となって呼吸が浅くなり、パニック状態に陥るもので、医学的には「過換気症候群」や「過呼吸症候群」と呼ぶ。

 ここに来て、この症状に関連する事例が立て続けにニュースになった。全日本テコンドー協会の高橋美穂理事と、神戸の小学校で先輩教員らによるいじめに遭っていた被害者教員だ。

 そこで今回は、過呼吸状態に陥った時に思い出してほしい対処法を、呼吸器内科医に取材した。前回の記事と合わせて参考にしてほしい。

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「吸いたいのに吸えない」のパニックで陥る“過呼吸”

 10月8日に開催された全日本テコンドー協会理事会で、金原昇会長らに体制刷新を求めたものの退けられた高橋美穂理事は、理事会途中で気分が悪くなり退室。会議室の外で倒れて救急搬送された。症状は「過呼吸」だったという。

 一方、神戸市須磨区の小学校で起きた教員によるいじめ事件の被害者の一人も、陰湿ないじめの影響で嘔吐や不眠、過呼吸などの症状に苦しめられているという。

 さらに、これとは別に9月10日には東京都板橋区内の中学校で、生徒15人が集団で過呼吸症状を訴えて、救急車10台が駆け付けたという報道もある。

「いずれも強い精神的なストレスが関与していると考えられます」

 と語るのは、東京都豊島区にある池袋大谷クリニック院長で呼吸器内科医の大谷義夫医師。詳しく解説してもらおう。

大谷義夫医師

「私たちは普段、1分間に12~20回の呼吸をしています。通常は約1秒で吸って2秒程度をかけて吐く――というサイクルが平均的ですが、過度な緊張状態に陥ると、この比率が崩れてくる。1秒で吸って1.5秒で吐く、1秒で吸って1秒で吐く――と、“吸う”と“吐く”の比率が近づくほど、息苦しくなっていきます」

 本来の呼吸は、「吐き切ってから吸う」のが自然なのだが、「吐き切らないうちに吸う」ことを繰り返すことで「吸いたいのに吸えない」という意識が湧き上がり、パニックに陥る。このパニックがさらに呼吸を浅くする、という悪循環だ。

「自律神経のうち副交感神経が優位になるとリラックスし、交感神経が優位になると体は活発化します。過呼吸が起きるのは、交感神経が過度に活発化した時。激怒する、興奮する、極度に緊張したり不安を感じるなどの状態は、明らかに交感神経が優位になっているので、過呼吸になるリスクは高まります」(大谷医師、以下同)